アパレル店頭での不要衣類の回収、リユース、リサイクルの一連の取り組みが進まない理由はコスト負担の大きさ
1.調査結果概要
本調査ではアパレル業界で進められている店頭での不要衣類の回収、リユース(再利用)、リサイクル(再資源化)の現状と課題、こうした循環型ファッションを推進する上での必要条件等について、2023年6月に国内主要アパレルメーカー、小売業、卸・商社59社に対し、法人アンケート調査を実施した。
アパレル業界では持続可能な社会に対する関心の高まりを受けて、環境保全に資する取り組みとして消費者や生活者から不要となった衣類を回収する企業が増えてきている。実際に不要衣類の回収を行っているかどうか(単数回答)について、本調査では約4割の企業は回収しており、残りの約6割は回収していないという結果であった。不要衣類の回収についてはまだ半数にも満たないという結果だが、企業別にみると、アパレルメーカーを中心に取り組んでいる姿が窺える。
なお、不要衣類の回収を行っていると回答した企業(23社)についてリユース、リサイクルを進める上で特に課題(複数回答)となっているのは「回収を含む一連の取り組みのコスト負担が大きい(69.6%)」である。次いで「古物営業法などの法的規制(34.8%)」、「リユース、リサイクルした際のトレーサビリティが確保できない(30.4%)」も課題とされている結果であった。
また、衣類のリサイクル(再資源化)のために必要条件(複数回答)について、本調査対象企業(59社)においては「混紡(綿×ポリエステル等)素材のリサイクル技術の開発(50.8%)」、「ポリエステル素材衣類のリサイクル処理能力の拡大(49.2%)」が特に必要だと考えられている。
2.注目トピック
不要衣類を回収、リユース、リサイクルの一連の取り組みが進まない理由は企業でのコスト負担の大きさ
本調査結果から、アパレル業界で不要衣類の回収、リユース(再利用)、リサイクル(再資源化)が進まない理由として、約7割の企業が回収を含む一連の取り組みのコスト負担の大きさを挙げている。店頭で不要衣類を回収した後、リユースあるいはリサイクルを行うにあたり、独自のシステムを構築していないアパレル企業にとっては、回収した不要衣類を選別、リユース、リサイクルを行う故繊維事業者(繊維くずや古着を回収、選別、再資源化を行う事業者)などの外部事業者と連携して行う必要がある。さらに、故繊維事業者などの外部事業者に回収した不要衣類を譲渡した後、どの程度リユース、リサイクルをされたかのトレーサビリティ(流通経路の追跡確認)を把握することが難しくなる。
また、不要衣類の回収の段階においては古物営業法などの法的規制も課題として指摘されている。これは不要衣類と交換でアパレル企業側が何らかの特典を消費者や生活者(不要衣類を提供した側)に付与する場合、本人確認が必要になることである。店頭スタッフの中核業務は接客、販売であることから、それ以外の付帯的な業務は負担になるものと考える。
加えて、技術開発や処理能力に関連する課題も指摘されている。本調査結果からも「混紡(綿×ポリエステル等)素材のリサイクル技術の開発」と「ポリエステル素材衣類のリサイクル処理能力の拡大」が特に必要だとされる。
国内で流通している衣類は綿100%やポリエステル100%といった単一素材だけでなく、綿とポリエステルなどの2種混紡、3種混紡も多い。こうした混紡素材の衣類のリサイクル技術が開発途上にある点が指摘されている。
また、ポリエステル素材のケミカルリサイクル(化学的な処理を行い、原料に戻してから再利用する)を事業化している企業は国内でまだわずかであることから、リサイクル処理能力が十分に確保されていない状況である点も課題である。この背景にはポリエステル素材のケミカルリサイクルを行うためのプラントへの設備投資をはじめとした大規模投資が不可欠になることがある。リサイクル原料を使用したアパレル製品(衣類)の消費者需要が見通せないなか、巨額の先行投資を行うにはリスクがあるためとみられる。
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【ショートレポートに掲載されているオリジナル情報】BCパターン
循環型ファッション実現のカギはエンドユーザーの需要喚起
調査要綱
2.調査対象: 国内主要アパレルメーカー、小売業、卸・商社59社
3.調査方法: 郵送アンケート調査
<循環型ファッション推進への取り組みと課題に関する法人アンケート調査とは>
本調査では2023年6月に国内主要アパレルメーカー、小売業、卸・商社59社に対し、法人アンケート調査を実施し、アパレル業界で進められている店頭での不要衣類の回収、リユース(再利用)、リサイクル(再資源化)の現状と課題、必要条件等から、循環型ファッションを推進するための障壁や課題を現状分析し考察した。ここではその一部を公表する。
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