今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2025 / 01 / 31
今週の”ひらめき“視点
ニデックvs牧野フライス、工作機械業界の未来を巡る攻防

1月28日、日本長期信用銀行を前身とするSBI新生銀行は、自己資本と親会社SBIホールディングスからの追加出資をもって公的資金1000億円を今年度内に返済、残る2300億円も早期に完済し、3度目の上場を目指すと発表した。2021年、SBIは新生銀行に対して”同意なきTOB“実施を発表する。新生銀行経営陣はこれに反発、買収防衛策の発動を探った。しかし、結局、ホワイトナイトは現れずSBI提案を受け入れることとなる。

今、牧野フライス製作所(以下、マキノ)がニデックによる”事前打診のないTOB提案“に揺れる。昨年12月27日、ニデックはマキノに対するTOBを表明、寝耳に水のマキノ側は社外取締役で構成される特別委員会を設置、TOB実施時期の先送りやTOB成立の下限を引き上げるよう要望する。しかし、ニデックは”方針どおり“を貫く構えだ。買収側と被買収側の交渉が公開で行われることは投資家にとってフェアであり、また、買い手にとってはスピード感も期待できる。一方、デューデリジェンスが甘くなる、つまり、買い意欲の高さゆえの”高値づかみ“や強引なプロセスが被買収側従業者の士気低下を招く懸念も残る。

今回の手法は”穏便な経営統合“を指向しがちな日本企業同士のM&Aにおいて異例の展開ではある。しかし、敵対的M&A自体は今や珍しくない。伊藤忠によるデサント、コロワイドによる大戸屋の買収、不成立となったが王子製紙による北越製紙、オーケーによる関西スーパーの事案も記憶に新しい。昨年暮れ、パチンコ機器メーカー”平和“がゴルフ場の最大手アコーディア・ゴルフを買収した。平和は2012年、既に傘下に収めていた業界2位のPGMを通じてアコーディアに敵対的TOBを仕掛けている。この時は、失敗に終わったが、その後、アコーディアはファンドからファンドへと譲渡され、最終的に平和は目的を達成する。

内需の成長力が低下する中、事業会社同士のM&Aも活発化するだろう。上場会社経営陣に求められるのは企業価値の向上であり、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードの実践はその前提である。問われているのは合理的で蓋然性の高い経営戦略とその実現力である。身内に閉じた論理はもはや通用しない。ニデックとマキノには堂々とそれぞれの事業戦略の優位性を資本市場にアピールしていただきたく思う。ただ、今更ではあるが、そして、もちろんこれも戦術の一環であろうが、何も年末年始”奇跡の9連休“の前日に敵対的TOBを公表せずともよかったのでは? ニデックさん。

2025 / 01 / 24
今週の“ひらめき”視点
ガザ、停戦。「”壁“の外と内」の真実から目を逸らすな

1月19日、ガザは6週間の時限が付いた第1段階の停戦期間に入った。当初、停戦開始時刻は8時30分とされたが、ハマス側からの人質名簿の提出が遅れたため、11時過ぎの停戦入りとなった。この間、イスラエル国防軍は空爆を継続、新たに19人の命が失われた。この日、ハマスは人質3人を解放、イスラエルは受刑者90人を釈放した。合意が順調に守られれば第1段階の停戦期間中にイスラエル人33人、パレスチナ人1890人が”交換“されるという。

報道では解放されたパレスチナ人を「受刑者」「囚人」と表現した。しかし、彼らは起訴や裁判にもとづく犯罪者ではない。NHKは世界の教育コンテンツの向上と文化の相互理解に貢献する映像作品を毎年”日本賞“として表彰しているが、2023年のグランプリ作品「Two Kids A Day」が思い出された。作品に登場する元少年はイスラエル兵に石を投げたという”テロ“行為によって拘束された。ヨルダン川西岸では毎年700人のこどもがイスラエル軍に逮捕されているという。タイトルの”1日に2人のこども“とはこの意味だ。

2023年10月7日、戦端はハマスによる”奇襲“によって開かれた。しかし、占領者による暴力の日常がその根底にあったことを看過すべきではない。2024年1月、国際司法裁判所(ICJ)はイスラエルに対してジェノサイド阻止の暫定措置を命令、7月には武力による領土取得と自決権の剥奪を国連憲章違反と認定した。9月、国連総会で加盟国の6割を越える124ヶ国がこれを採択、11月、国際刑事裁判所(ICC)はハマス指導者とともにイスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状を出した。容疑は人道に対する罪と戦争犯罪だ。しかし、イスラエルの後ろ盾である米国はこれを不満としてICCに制裁を課す法案を可決、トランプ氏がこれを引き継ぐ。

二国家共存への道は遠い。憎しみの連鎖も続く。解決は容易ではない。しかし、この問題の責任は言わば”絡み合った歴史“にある。同時代を共有する私たちもまた考え続ける必要がある。来る2月8日(土)17時30分より、筆者も運営の一端に関わっているシェア型書店「センイチブックス」はジャーナリスト 川上泰徳氏を招いて、パレスチナの今を伝えるドキュメンタリー映画「”壁“の外と内」の上映会&トークイベントを開催する。現地の空気を感じ、人々の表情に向き合い、彼らの声を聴くこと、そして、自分自身で考えることから始めたい。一緒に考えてみませんか。どうぞ、今すぐこちらから。

※ 「”壁“の外と内」上映会の詳細について
https://peatix.com/event/4222916
日時:2025年2月8日(土)PM17:30~21:00
場所(著書販売会): センイチブックス 東京都調布市仙川町1丁目19-24 リヴェール仙川202(京王線仙川駅徒歩1分)
(上映会): ツォモリリ文庫 東京都調布市仙川町1丁目25-4(京王線仙川駅徒歩3分)
入場料:3000円(内訳 参加費:2500円 +ツォモリリ文庫でのワンドリンク500円)
お申込はこちらから

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「パレスチナを巡り国際情勢、緊迫。まずはガザ市民に安全と食料を!」今週の"ひらめき"視点 2024.5.26 – 5.30

2025 / 01 / 17
今週の“ひらめき”視点
トランプ政権2.0、まもなくスタート。民主主義は正気を保てるか

1月13日、米鉄鋼大手「クリーブランド・クリフス」のCEO、ローレンコ・ゴンカルベス氏は記者会見の席上、日本製鉄によるUSスチール社の買収に関連して「中国は悪だが、日本はもっと邪悪だ」などとダンピング問題を批判したうえで、「日本は1945年から何も学んでいない!」などと星条旗を握りしめながら声を荒げた。19世紀末に芽生えた「黄禍論(Yellow Peril)」そのままの、剥き出しのアジア人蔑視には辟易するが、ある意味 “今” のアメリカの一端を象徴しているとも言えよう。

さて、氏の暴言はとりあえず捨て置く。看過出来ないのはフェイスブック、インスタグラムの運営会社Metaの「ファクトチェックとコンテンツ規制に関する方針転換」である。1月7日、ザッカーバーグCEOは、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)の認証を受けた第三者プログラムの米国内での運用を停止すると発表、あわせて、政治、宗教、人種、性的指向等の文脈における不寛容の自認、排除の呼びかけ、侮蔑的な言葉への制約も緩和すると声明した。

また、「ユーザーの好みに最適化させるパーソナライズ技術を活用することで、これまで制限されてきた一部の政治的コンテンツにもストレスなくアクセス出来るようになる」とのことである。つまり、情報の真偽に関する議論は遠ざけられ、自分にとって心地よい言説だけを根拠に “歴史” や “現実” が勝手に再構成され、それが拡散、共有されるリスクが高まる、ということだ。結果、異論は排除され、分断は深まる。

多様性、公平性、包括性に関するプログラム(DEI)も後退する。ウォルマート、マクドナルド、フォード、アマゾン、、、そして、Metaだ。言うまでもなく、こちらも新政権の政策的主張に添う。トランプ氏がザッカーバーグ氏に対して「ずっと監視している」などと警告してきたことは有名だ。20日の就任式を前にブラフ(bluff)を連発するトランプ氏に早くも忖度、同調、忠誠を表明する者、一方、そこには与しないとの姿勢をとるカナダ、パナマ、グリーンランド、アップル、コストコ、、、世界はトランプ氏のペースに嵌りつつある。

2025 / 01 / 10
今週の“ひらめき”視点
2025年 内に閉じるな。変化の起点となれ

新年おめでとうございます。年頭にあたり謹んでご挨拶を申し上げます。

昨年は、世界で、否、とりわけ先進国で政変が相次いだ。英国では政権交代、ドイツ、フランスは内閣総辞職、日本でも自公政権が少数与党に転落した。米国ではトランプ氏が圧勝、韓国に至っては “弾劾” である。
2017年、トランプ氏の登場に際して、筆者は「排外的な自国第一主義は、行き過ぎたグローバリズムの反動であり、社会の歪みが一線を越えつつあることの現れ」と本稿に書いた。あれから8年、それはすっかり世界のいたるところに根づき、分断は更に深まりつつある。

SNS時代の民主主義のリスク

生きづらさを抱える者たちの批判はエリートに、社会への不信は既存メディアに向かう。彼らの言論空間はSNSだ。そこでは攻撃対象に関する真偽不明の不正義が一方的に生産・糾弾・共有され、やがて “実態の見えない多数派” が形成される。こうした空間の膨張に制度が追いついていない。民主主義の危機はここにある。
危機は強権政治の土壌となり得る。この状況を象徴するのが米国だ。国際協調主義からの離脱、自国優先の取引外交、多様性の否定、伝統的価値観への回帰、移民の排除、地球環境問題の軽視、、、など、既成の権威、常識、価値観を否定するトランプ流ポピュリズムが分断の細分化に拍車をかける。
科学ジャーナリスト、アンジェラ・サイニー氏は著書「家父長制の起源」(道本美穂訳、集英社)の中で「人民を支配する最も効果的な戦略は『分断・統治』である。小さな集団に分けることで人々は団結しにくくなり、忠誠心は支配者に向かう」と指摘する。なるほど、“実態の見えない多数派” の正体はまさにこれだ。日本も例外ではない。

トランプ政権下のビジネスチャンスとは

さて、トランプ氏の政策が各国の経済政策、企業の経営戦略に与える影響は小さくないだろう。しかし、予測不能の彼の言動に過度に身構える必要はない。極端で、かつ、振れ幅の大きいトランプ氏の産業政策の間隙はまさにビジネスチャンスでもある。
掘って掘って掘りまくれ、とのトランプ氏の掛け声を追い風に米国の石油・天然ガス業界は勢いを取り戻すだろう。一方、気候変動対策に対する投資は後退するはずだ。合理性のない関税の一律一斉引上げは対米輸出依存度の高い企業にとっては打撃だ。しかし、輸入コストの増加は米国内の物価を押し上げ、米製造業の競争力を低下させかねない。輸入に依存してきたサプライチェーンの国内シフトは、取引価格はもちろん、量的にも質的にも容易ではないだろう。
恐らく、一律一斉ではなく、国別品目別の交渉となるはずだ。だとすれば、問われるのは外交力と個々の品目における国際競争力である。“米国経済の失速リスク” をカードに4年後を見据えた戦略的な交渉をお願いしたい。

変化を突破するための意志と覚悟を

年末、ホンダと日産自動車が経営統合に向けての協議に入った。三菱自動車も合流するとされる。日産は再び大規模な生産縮小と人員削減に追い込まれた。もはやゴーン氏による「拡大路線の後遺症」ではない。トップが引き継がれて既に8期目だ。EVで勝てず、HVもなく、販売奨励金に頼らざるを得ない現状の責任は現経営陣にある。ホンダとはEV事業における協業が既に始まっているが、経営統合のレベルに一挙に進んだ背景には鴻海精密工業による日産株取得の動きがあったという。イニシアティブは「外部」からの圧力ということだ。
10月にはセブン&アイ・ホールディングスが非コンビニ事業を統合した中間持株会社の設立を発表、保有株式の売却手続きに入った。非コンビニ事業の切り離しは既定路線だった。とは言え、このタイミングでの実施は8月に表明されたカナダの同業大手による突然の買収提案に対する防衛策であろうことは想像に難くない。こちらも「外圧」に背中を押された格好だ。経営を取り巻く外部環境変化への対応は早かった。しかし、もしそれがなかったら、まさにこの時期に、果たして自らその一歩を踏み出せていただろうか。
そもそも日産には「鴻海との資本提携のもとでグローバルEV市場を戦う」という選択肢もあったはずだ。セブンイレブンにあってもカナダ社との連携は「海外市場における成長の実現」という文脈において合理性がある。
ホンダと日産の協議について政府は「日本企業同士の経営統合を歓迎する」と声明した。セブン&アイは創業家からのMBO提案を受け、非上場化を検討するという。もはやオールジャパンを歓迎するなどという時代ではないし、資本市場からの退場が企業を守ることではない。

国内に分断を抱える欧米と、分断の存在すら封じる中国との対立が深まる。ロシア、イスラエルの軍事侵攻も落としどころ見えない。自国利益のみが複雑に絡み合う世界にあって、安定はますます遠のく。今、私たちに求められるのは変化への耐性と適応力だ。しかし、それだけは時間稼ぎに過ぎない。変化を突破するエネルギーと自らが変化の主体となる覚悟こそが問われている。
異なるものを遠ざけ、現状に閉じるだけでは未来は拓かれない。私たちはリスクをとって、外へ出て、未来を拓く。

本年もご指導、ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。

2024 / 12 / 20
今週の“ひらめき”視点
ホンダと日産自動車、経営統合へ。巨大グループを率いるリーダーはいるか

ホンダと日産自動車が経営統合に向けて最終調整に入った。両社は、両社を傘下に置く持株会社を設立し、そこに三菱自動車も合流するという。3社による経営統合が実現すればトヨタグループ、独フォルクスワーゲングループに次ぐ、世界第3位の自動車メーカーグループとなる。

業績不振に喘ぐ日産は、11月、生産能力の2割縮小とグローバル社員9000人の削減を骨子とする構造改革策を発表した。再度の大規模リストラに追い込まれた要因をゴーン氏による「拡大路線の歪み」などと解説する向きもあるが、トップが引き継がれて既に8期目だ。EVで勝てず、HVもなく、販売奨励金に頼らざるを得ない状況にいつまでも手を打てなかった責任が “ゴーン以後の” 経営陣にあることは言うまでもない。

両社はこの3月、EV開発領域における協業に合意、8月には車載コンピューターの基本ソフトの共通化など業務提携の具体的な内容を発表、この時、三菱自動車の参画も表明されている。しかしながら、これが経営統合というレベルに一挙に進んだ背景には台湾の鴻海精密工業による日産株取得の動きがあったとされる。つまり、統合を主導したのは「外部」からの圧力であり、このタイミングでの発表は鴻海からの買収防衛とも解せよう。

さて、報道によると経営統合については “ほぼ合意” とのことである。であれば次の課題は経営体制だ。統合とは言え、実質的にはホンダによる救済的側面が強い。一方、大規模な開発投資を必要とするEV市場にあってホンダも今の規模では戦えない。当然、日産も対等を主張するであろう。しかし、そもそも「鴻海と組んでホンダを傘下に収めてやる!」ぐらいの覚悟と戦略をもったトップの不在が日産敗因の要諦である。よって、対等を前提とした経営スキームが成功するとは思えない。決定的とも言える企業文化のちがいを乗り越え、巨大自動車メーカーを率い、テスラやBYDと世界で戦うためにはそれこそゴーン氏以上の腕力と決断力が必要となる。

2024 / 12 / 13
今週の“ひらめき”視点
セブンイレブン、どこへ行く? 解体されゆく総合流通企業の行方

10月10日、セブン&アイ・ホールディングス(以下、HD)は、“グループ構造の最適化をはかる” としてイトーヨーカ堂、ヨークベニマル、ロフト、赤ちゃん本舗、外食事業など非コンビニ事業(SST事業グループ)を統合した中間持株会社「ヨーク・ホールディングス」を設立、保有株式の過半を売却する手続きに入った。11月28日に締め切られた1次入札には住友商事グループ、日本産業パートナーズ(JIP)、米投資ファンドグループなどが参加、2次入札を経て2025年度中に持分法適用会社化する。

SST事業グループの切り離しはHDの独立社外役員で構成される “戦略委員会” がこの4月に提言した方向性に添うものである。とは言え、このタイミングでの実施はカナダの同業大手「アリマンタシォン・クシュタール」(ACT社)からの買収提案に対する防衛策と解するのが自然だ。創業家も動く。11月13日、HDは創業家グループから “MBOによる買収提案” を受けていることを公表、国内メガバンクや米投資ファンド、ファミリーマートを傘下に持つ伊藤忠商事などがファイナンスパートナーとして関心を示しているという。

HDにとってACT社からの買収提案は衝撃だっただろう。しかし、HDは昨年も米投資ファンド「バリューアクト・キャピタル」(VAC社)からコングロマリット構造の再編と役員陣の交代を突き付けられている。これに対してHDは「セブン&アイ・グループは食を中心とした世界有数のリテールグループ」であり、「コンビニ事業への投資を強化するとともにオッシュマンズ、フランフラン、そごう・西武、バーニーズを売却するなど構造改革を進めてきた」と反論、役員選任に関する株主提案も「VAC社が推薦する候補者は食品・小売業界における経験が乏しい」と一蹴した。

ただ、 現在進行している事態はVAC社が主張した “コンビニ事業のスピンオフ” そのものであって、VAC社提案との決定的な違いは井阪社長を含む役員全員がそのまま残っている点にある。HDはSST事業グループを切り離すことで「SST事業グループは独立した企業体として自らの成長戦略を自ら定めることができる」とその意義を説明するが、要するにHDの現経営陣は彼らの成長とシナジーを主導することが出来なかったということだ。今、国内のコンビニ市場は飽和状態にある。成長を担うのは海外だ。であれば、経営者の要件はグローバルマネジメント能力の高さである。“戦略委員会”はこの視点から経営体制の在り方を検討し、“セブンイレブン” の未来を提言いただきたく思う。