百貨店売上が好調だ。7月の全国百貨店売上高は5,011億円、前年同月比+5.5%、前年を上回るのは29カ月連続、全体の約8割を売り上げる都市部の百貨店がこれを牽引する(日本百貨店協会)。主要10都市の百貨店売上は3,921億円、同+8.2%、34カ月連続で前年を上回った。そして、都市部の好調さを押し上げているのがインバウンドによる高額品需要である。7月単月の免税売上は633億円、同+2.3%、コロナ禍前の2019年7月の約2.2倍、1~7月の累計は3,978億円、過去最高だった2023年の売上総額を既に越えている。
実際、訪日外国人(外客)数は既に2024年上半期の時点において、コロナ禍前の2019年1~6月期を100万人上回る1,777万人を記録、過去最高となった(日本政府観光局)。7月も前年同月比+41.9%の329万人、単月として過去最高を記録した。国別にみると77万6千人の中国がトップであるがコロナ禍前と比較すると26%減、団体ツアーから個人旅行へのシフトが顕著だ。一方、韓国、米国、カナダ、豪州、フィリピン、インドネシアなど19カ国が7月としては過去最高となった。こうした訪日客層の質的変化と円安がコロナ禍前の所謂 “爆買い” とは異なる需要を生み出している。
一方、オーバーツーリズムも深刻になりつつある。「バスに乗れない」やごみの不法投棄が問題化した京都をはじめ、一部では住民、行政との対立もはじまった。とりわけ今年話題となったのが「富士山」である。SNS映えが有名となったコンビニ店前の巨大な「黒幕」、山梨県による登山道へのゲート設置、夜間閉鎖、通行料徴収など、富士山界隈ではあえて観光客を制限するための施策が講じられた。もちろん、迷惑行為の主体は外国人だけではないが、特定スポットへの “集中” の度が過ぎるということだ。
インバウンドの経済効果は大きい。業界や地方は競うように外需の取り込みを目指す。ただ、全体としてのちぐはぐ感も出てきた。今年5月、あまりの不便さに対する批判を受けて計画半ばで頓挫したJR東日本の “みどりの窓口削減” 問題もその一つだ。そこにあったのは効率優先の同社の “ご都合” だけでありインバウンドを含む利用者視点は欠落していた。オーバーツーリズムも然りだ。「これからはクオリティで勝負だ」、「ターゲットは富裕層だ」などと口を揃えても、利用しづらい公共交通、不衛生な街、どこに行っても長蛇の列、挙句、住民から歓迎されないのでは観光立国の実現はおぼつかない。総体としての日本の魅力をどう維持し、向上させるか、全体視点からの取り組みが必要だ。