今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2020 / 04 / 17
今週の“ひらめき”視点
JDIの粉飾疑惑、調査結果を公表。再建に向けて後はない

4月13日、経営再建中の液晶パネルメーカー、ジャパンディスプレイ(以下、JDI)は、会社資金の着服を事由に懲戒解雇され、昨秋、自殺した元経理部門社員が告白した「不適切な会計処理」に関する第三者委員会による調査結果を公表した。
確認された不正とは、期末在庫の架空計上、費用の先送りや資産化による利益操作などで東証1部上場後の2014年3月期から2019年上期まで続けられていた。過大計上された在庫は決算処理後、翌期に減損処理、最終損益に与えた影響は累計16億円とのことであるが、2016年3月期では102億円の不正利益が上乗せされていた。

JDIは粉飾決算が常態化した理由について、「不適切会計処理の多くは、不適切会計処理の通知を行った元従業員が主導した」ものであり、直接的な要因は「当該元従業員に経理部門の権限が集中し、上位者や経理部門内部での牽制が十分に機能しなかった」こと、「業績達成に向けた上位者からのプレッシャーが存在していた」ことにあると説明した。また、間接的な要因として、「当社の長年の業績不振、営業利益を最重視する社風、取締役会による監視監督機能や内部統制システム機能の不十分性等も背景にある」と総括した(4月13日付け、同社リリース資料より)。
しかしながら、長期にわたって繰り返された不正な会計処理が経理部門の一社員判断で行われていたとは考え難いし、そこまで追い込まれるほどの業績達成プレッシャーを当該社員が負っていたとの説明も違和感が残る。とは言え、例えその通りであったとしても、トップや経理担当役員がこれを見抜けなかったとすればそれはそれで経営者としての資質と能力に問題があったと言わざるを得ない。

JDIは2012年4月、経済産業省主導のもとでソニー、東芝、日立のディスプレイ部門が統合、官民ファンドのINCJ(旧産業革新機構)から2,000億円の出資を受けて誕生した国策会社である。しかし、上場後も5期連続で赤字を計上、昨年4-6月期には債務超過に転落、出資を検討していた中国・台湾の企業連合からも見放された。
そうした中での不正発覚である。数千億円の公的資金を投じてきたINCJ、最大顧客のアップル、新たな支援者となったいちごアセットマネジメント、個人株主、一般従業員、、、JDIを支えてきたステークホルダー全員が粉飾された経営数値を見せ続けられてきたということだ。

不正会計の公表とともに発表された2019年4~12月期の業績は売上387,775百万円(前年同期比83.3%)、最終利益は110,885百万円の赤字(前年同期は9,814百万円の赤字)となった。
13日の会見で菊岡社長は「ご心配をおかけし、深くお詫びする」と謝罪したとのことであるが、2千社を越える下請け会社のためにももはや後はない。今期の厳しい経営環境は誰も同じだ。これを乗り越え経営再建の道筋を “結果” をもって示すこと、それ以外に信頼回復と投じられた公的資金に応える道はない。

2020 / 04 / 10
今週の“ひらめき”視点
緊急事態宣言発出、民度の成熟度が成果創出のキーポイント

9日、IMFのゲオルギエワ専務理事は新型コロナウイルス感染拡大の影響を「リーマンショックを上回る大恐慌以来の落ち込み」との認識を表明したうえで、2020年は170ヵ国以上で一人当たりの所得がマイナスになると指摘した。また、各国による財政出動は「世界のGDPの9%に相当する8兆ドルに達する大規模なものであり、経済は徐々に再開してゆく」としながらも、2021年も「部分的な持ち直し」に止まるだろうとの見通しも示した。国、地域、都市間における移動制限と行動制限の影響は想定以上に長期化する可能性が高いということだ。

その前日、2か月半ぶりに武漢の封鎖が解かれた。東風汽車集団と合弁するホンダの現地稼働率は50%に回復、半導体大手「紫光集団」グループの長江メモリー・テクノロジーの生産量も封鎖前の水準を取り戻すなど、企業活動の再開が急ピッチだ。欧州でも規制解除に向けての動きが始まった。オーストリア、デンマーク、ノルウェーでは店舗や学校の再開準備が進む。ドイツ、イタリア、スペインでも復活祭明けを目途に一部の規制緩和が検討されているという。
一方、陰性者が再び陽性化するなど新型コロナウイルスには不明な点も多い。無症状の感染者の実態も掴めていない。性急な緩和は第2派、第3派の感染拡大を起こす可能性もあり社会的リスクは高い。

4月7日、政府は新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急経済対策を発表、翌8日には首都圏、関西圏、九州の7都道府県に「緊急事態宣言」を発出した。経済対策における財政支出は昨年12月に閣議決定された総合経済対策9.8兆円に緊急対応策の0.5兆円と新たな追加分29.2兆円を加えた総額39.5兆円、総事業費で108.2兆円となった。対応のスピード感、地方自治体との調整不足、経済支援の内容や制度設計への疑問は残る。しかしながら、収入の急減に見舞われた家計や事業者には一刻の猶予もない。まずは迅速な実行を、そして、不備があれば直ちに見直し、必要な追加措置を講じて欲しい。

強制力を伴わない行動規制への批判も強い。一部自治体では警察の投入が表明されたようだ。しかし、危機にあって試されているのはまさに民主主義の成熟度であり、問われているのは社会の民度そのものである。首長判断による警察の投入が、罰則を伴わない自粛の効果を疑問視する “大きな声” を背景にした単なるリーダーシップの演出であることを願う。
他国の制度や対策がすべて正しいわけではない。選択された方法で結果を出す、そのために何をすべきかだ。成果がついて来なければ科学的な検証を通じて軌道修正の是非を問えば良い。とにかく、着手すること、行動することが先決だ。とは言え、「レストランに行ってはいけないのですか」、「私のような国会議員は収入に影響がない」、「責任をとれば良いということではない」、トップが発したこれらの言葉に覚悟は萎える。残念だ。

2020 / 04 / 03
今週の“ひらめき”視点
東京2020大会、TOKYOは未来と世界に対して誇れる選択を!

新型コロナウイルス感染拡大を受け延期が決定した東京2020大会の新たな日程が発表された。アスリートや大会関係者はもちろん、楽しみにしていた多くの人が安堵したことと思う。しかし、この状況下にあって “延期” は正しい選択であったのか。

社会のムードを盛り上げるという意味でも、また、経済貢献という視点からみても大会開催の意義は大きい。東京都オリンピック・パラリンピック準備局の試算によると東京2020大会の需要創出額は1兆9,790億円、生産誘発額は5兆2,162億円に達する。新国立競技場建設など施設関連の整備費は既に支出済みとしても、大会運営費、参加者や来場者の消費支出、TVの買い替え需要などこれから新たに発生する消費額は大きい。
当然、“中止” になればこうした需要は失われる。宿泊、外食、旅行業界をはじめ影響は甚大だ。しかし、だからといって消費のすべてが失われるわけではないし、そもそも社会全体が恩恵を受けるわけではない。

帝国データバンクが実施したアンケート調査では、「東京2020大会が自社の業績にプラスの影響をもたらす」と回答した企業は全体の15%に止まる。56.1%の企業が「業績に影響はない」とし、「悪化する」と回答した企業も10.5%あった(「東京五輪に関する企業の意識調査」、2019年10月、有効票1万113社)。例えば、大会期間中にメディアセンターとなる東京ビッグサイトでは展示会200本以上が開催出来ない。出展社8.2万社、2.2兆円の売上が犠牲となる(日本展示会協会)。一方、大きな投資を実施したであろうインバウンド業界も大会期間中の需要増だけでの回収は見込んでいないはずだ。

経済効果とは言うまでもなく売上である。すなわち、誰かの支出、ということである。では誰が開催費用を負担するのか。東京2020大会ではスポンサー料やチケット販売などを収入源とする組織委員会が45%、東京都が44%、国が11%を負担する。つまり、全体の55%は税金だ。
“1年間の延期” には更に数千億円の追加費用が必要となる。今、首都の封鎖さえ取り沙汰される状況にあって、大会延命のために莫大な公的資金を投入すべきか。そもそも本当に開催できるかどうかも不透明であり、いつの時点で、世界の感染状況がどうなっていたら実施できるのか、その条件さえ示されていない。
リオデジャネイロ五輪では205の国・地域が参加した。現時点で新型コロナウイルスの感染は177の国・地域に拡大している。例え、日本や先進国の感染が終息したとしてもそれだけでは開催条件が整ったとは言えない。

医療機関への支援、治療薬の開発は緊急課題だ。生活者や事業者への経済支援も猶予出来ない。物資の確保、社会インフラの維持にもお金が必要だ。発表の場を失った演劇人、音楽家など文化の担い手たちも困窮している。まずは感染の終息と社会活動全体の正常化が優先されるべきであり、予算も人もここに集中投下すべきである。
スポンサー企業をはじめグローバル大企業にも期待したい。広告宣伝費、利益剰余金の一定額を拠出、大型の基金を組成し、治療薬の研究開発支援、中小企業への信用供与、新興国支援などに貢献いただきたい。最大のCSR効果が得られるはずだ。

今、最大の不安要因は将来が見通せないことに尽きる。未来に向けて進むためにも不確定要件を一つでも減らすことが肝要である。
大会関係者のお気持ちは察して余りある。しかし、判断は先延ばしにすればするほど損失が拡大する。損失とは経済的な意味だけではない。“オリンピック・パラリンピック” そのものの社会的価値を棄損させないためにも名誉ある撤退を選択すべきである。

2020 / 03 / 27
今週の“ひらめき”視点
新型コロナ、影響は全産業へ。政策効果を最大化するための条件は「信頼」である

資源価格が急落している。国際原油相場は1バレル30ドル前後と年初の半分の水準まで落ち込んだ。暴落のきっかけは原油市場におけるサウジアラビアとロシアの価格競争であった。しかし、相場の先行き懸念は「実体経済における需要減」に変わった。言うまでもなく要因は新型コロナウイルスの感染拡大である。
世界に拡散した国境閉鎖、都市封鎖、外出制限の影響は、運輸、小売、サービス業にとどまらず、川上から川下まであらゆる産業活動に急ブレーキをかける。グローバル経済は完全に機能不全に陥りつつある。

政府は50兆円規模の緊急経済対策の準備に入った。現金給付、商品券、雇用助成、納税猶予、延滞税免除、政府系金融機関を通じての各種制度金融の拡充などが検討されている。民間金融機関も支援策を具体化する。三井住友銀行はサプライチェーンの維持に使途を絞った2,000億円規模の大手企業向けファンドと中堅中小企業を対象とする特別ファンドを組成する。三菱UFJ銀行も法人、個人事業主向けに新型コロナに対応した「災害等特別融資」を開始した。
生活支援、経営支援、消費喚起、需要創出、、、政策目的を明確にした施策の迅速な実行が望まれる。もちろん、優先課題は治療薬の開発である。国や研究機関のメンツや利益を越えた次元での国際的な開発、生産、配給体制の確立を急いでいただきたい。

26日、東京都の小池都知事は突如「首都の封鎖」に言及した。東京オリンピック・パラリンピック延期決定直後に表明した「今後3週間が重大局面」との危機認識は、習近平氏の来日延期の正式決定直後に発表された「中国全土からの入国規制強化」と同様に、例えそれが医学的必然性ゆえのタイミングであっても政治的都合、あるいは自身の “やってる感” の演出という違和感を残すものとなった。
つまり、行政への不信を助長させたという意味で、また、メッセージ効果を軽減させたという意味において時を逸したと言える。社会全体に漂う先行き不透明感を払拭するためにも情報の共有と政治的決定におけるプロセスの透明化は必須である。行政、情報への「信頼」があって、はじめて政策効果は最大化する。

2020 / 03 / 19
今週の“ひらめき”視点
新型ウイルスに萎縮する世界、英国の“集団免疫理論”は有効か

新型コロナウイルス感染症が世界に広がる中、各国は一斉に金融緩和に舵を切った。16日、日銀もETFの買い入れ額を倍増すると発表、翌17日には1日あたりの過去最大1,800億円を投じた。しかし、株価下落の歯止めにはならず、返って、増大する含み損が明らかになることで政策効果への不信が募った。日銀は「リーマン・ショックほど経済は落ち込まない」との見解を表明したが、18日に発表された貿易統計の速報がそれを打ち消す。2月、中国からの輸入は前年比マイナス47%と激減した。文字通り中国からの部品、製品の仕入れが半減したということであり、国内の生産、販売への影響はこれから顕在化する。今、流行は欧州、米国、アジアへ拡散した。国境の封鎖や行動制限が世界に広がる中、世界規模で生産が滞り、市場が縮小しつつある。 “行き過ぎたグローバリズムへの反動” といった文脈を飛び越えて、世界は一挙に閉じつつある。

こうした中、12日、英国のボリス・ジョンソン首相が発表した対策が注目される。まず、「英国はイタリアより4週間遅れている、これから大規模な感染が予想される、多くの家庭で家族や親友が失われる」としたうえで、「英国は封じ込めではなく、ピークを遅らせ、ピークを50%に抑えることでリスクを最小化する。よって、当面、学校は閉鎖しない、イベント禁止は効果が小さいので行わない、渡航制限も追随しない」とした。そして、「新型ウイルスは感染しても多くの場合、軽症である。ゆえに高齢者や持病を持つ人など重症化しやすい弱者対策に集中する」との医療方針を示した。
こうした考え方は、人口の6割程度の人が感染し、免疫保持者となることで感染を収束させる集団免疫理論にもとづくという。ジョンソン氏は最高医療責任者と主任科学顧問を伴って、政策選択の根拠を示したうえで、「自粛行動は長期にわたって維持できない。ゆえに社会リスクを疫学的に最小化する」ことを国民にメッセージした。

集団免疫理論の採用には反対意見も根強い。「制御不能」となる事態を懸念する専門家も多く、「当面はしない」とした学校閉鎖は、「感染スピードが予想以上に速い」との理由でわずか6日後に撤回、方針転換を余儀なくされている。しかし、トップがその責任において選択した政策を、その根拠を明示したうえ国民に説明したことは、政策評価の基準を持つという意味において正しい。
ウイルスとの戦いはまだ第1コーナーを回ったばかりだ。各国の知見や経験を共有しつつ、最高レベルの専門家を交えたオープンな議論の中で、タイムラインを伴った総合的なウイルス対策を策定していただきたい。それこそが経済の不透明感と社会不安を払拭する最良のメッセージとなる。

2020 / 03 / 13
今週の“ひらめき”視点
東日本大震災から9年、被災は未だに進行している

2011年3月11日から9年が経過した。明日から「復興・創生期間」の最終年となる。「東日本大震災からの復興に向けた道のりと見通し」(令和2年3月版、復興庁)によると災害公営住宅、防災集団移転事業の計画達成率は99%、復興道路は76%の整備が完了、海岸対策も99%が着工、66%が完成済みだ。双葉町では帰還困難区域の避難指示が一部で先行解除、これにより全町が避難状態にある自治体は無くなった。14日にはJR東日本の常磐線が全線開通、特急 “ひたち” が仙台と都心を結ぶ。バス高速輸送システム(BRT)に転換した路線も含めると被災路線のすべてが復旧することになる。

宮城、岩手、福島3県の県内総生産は震災前の水準を取り戻した。津波によって被災した農地の92%が営農可能に(2019年3月)、被災水産加工施設も96%が再開した(2019年1月)。昨年9月には気仙沼の造船所4社が合併した新会社「みらい造船」の新工場が完成、漁船の造船・修理に特化した東北最大級の造船所がスタートした。月内には福島イノベーション・コースト構想にもとづくロボット実証実験施設「福島ロボットテストフィールド」も全面開所する。50㌶におよぶ敷地には500m級の無人航空機用の滑走路や水中・水上の実験施設が備わる。双葉町や大熊町でもエネルギーの地産地消プロジェクトが立ち上がる。“2011年時点” からの延長線上にはなかった新たな事業が被災地の可能性を拓く。

一方、依然として4.8万人が避難状態にある。避難の長期化に伴う災害関連死も3,757人に達した。復興はまだまだ道半ばであり、“被災” は終わっていない。切り裂かれた日常は置き去りにされたままである。その象徴がフクシマである。昨年末、政府は1、2号機の使用済核燃料の搬出開始を2023年度から5年遅らせることを決定した。工程表の改定はこれで5回目だ。中間貯蔵施設の整備も遅れている。放射性汚染土を収めたフレコンバッグ412万袋が仮置き状態のままである。日々増え続ける膨大な汚染水の問題もある。海洋放水が現実的であるとの流れに傾きつつあるものの漁業者の反対は根強い。

昨年10月、台風19号によって氾濫した河川が多数の汚染土入りフレコンバッグを押し流した。その一部は未だに個数も所在も不明のままである。汚染水の海洋放出問題ではトリチウム以外の放射性物質が基準値を越えて残留している可能性も指摘される。そうであればそもそもの前提が危うい。
先月、原子力規制委員会は、敦賀原発2号機の再稼働審査において日本原子力発電から提出された書類の中に “データの書き換え” や “削除” があったと発表、「考えられないことだ」としたうえで「審査の根幹が揺らぐ」と批判した。関西電力の金品不正授受の問題も記憶に新しい。原子力災害は目に見えない。ゆえに政府、行政、企業、技術、データに対する “信頼” がすべての根幹となる。まずは「アンダーコントロール」という嘘を捨て去り、事実を公開し、共有すること、福島の復興はここが原点でなければならない。