調査結果のポイント
第1章 鉄鋼業界のカーボンニュートラルに向けた動向と展望
ターゲットは、真水の 1.5 億 t
これから 10 年の立ち振る舞いに、鉄鋼産業の未来が掛かる
日本における粗鋼生産量は 2021 年で約 1 億 t、スクラップの消費量は 3,500 万 t 規模
(表)各国のカーボンニュートラル目標
(図)粗鋼生産量トップ 10 生産国
(表)2020-2021 粗鋼生産量 国別トップ 10
(図)世界粗鋼生産量(高炉・電炉別)
高炉メーカーによるスクラップの活用拡大等を背景に、スクラップ需要が拡大の見込み
(図)国内鉄スクラップ消費量
(図)国内鉄スクラップ供給量
2050 年を「到達点」と見るか、「通過点」と見るか
鉄鋼メーカーやユーザーの間に意識の違い、温度差あり
(表)脱炭素製鉄技術における課題
本気度の伝わらない、高炉メーカーによるグリーンスチール展開
電炉業界では、別の看板を模索する動きも
ユーザーサイドにおける Scope3(カテゴリー1)の位置づけは、業界・企業によってまちまち
CCS に依存する高炉ルートの脱炭素化を見直す動きも
求められる、全体最適化視点からのトランジション戦略アップデート
「鉄は叩かれてこそ強くなる」
まずは、様々なステークホルダーを巻き込み、議論する場を立ち上げることが重要
第2章 国内外政策動向
2-1. 鉄鋼業界のカーボンニュートラルに向けた取り組みと戦略
日本鉄鋼業界の CO2 排出量は 1.5 億 t 以上、総排出量の 14%を占める
2050 年のカーボンニュートラル達成のための重点産業との位置付け
(表)電炉製鋼法と高炉製鋼法の違い
(図)各製鉄方法・工程における CO2 排出量
(表)高炉メーカーにおけるカーボンニュートラル目標
(表)電炉メーカーにおけるカーボンニュートラル目標一例
「エコプロダクト」「エコソリューション」「エコプロセス」の 3 つのエコ推進が基本戦略
(表)日本鉄鋼連盟の CO2 排出量削減中長期目標「カーボンニュートラル行動計画」
(図)日本鉄鋼連盟長期温暖化対策シナリオにおける CO2 原単位推移
国内では、水素を軸とした高炉技術・直接還元技術の開発プロジェクトが本格化
海外では、欧州を中心に電炉シフト、DRI 投資、水素活用が活発化
(表)日本高炉メーカーの脱炭素化に向けた取り組み
(表)水素だけで低品位の鉄鉱石を還元する直接水素還元技術の開発
(表)欧州鉄鋼メーカーにおける脱炭素への取り組みの一例
(表)米国鉄鋼メーカーにおける脱炭素への取り組みの一例
2-2. 各国政府・協会における鉄鋼業界のカーボンニュートラル戦略及び規制
2021 年 1 月のバイデン政権発足後、米国のカーボンニュートラルに向けた戦略が明確化
鉄鋼産業に対しては、電炉ルートを主体とした脱炭素シナリオが示される
(図)米エネルギー省 鉄鋼産業における脱炭素シナリオ
(表)研究開発・展開における中長期的インパクト
Green Deal から Fit for 55 へ、目標の前倒しに向け、各方面での脱炭素化を加速
グリーン電力、水素、CCS/CCUS が「ゼロエミッションスチール」の要諦と位置付ける
(表)Smart Carbon Usage/Carbon Direct Avoidance 概要
(表)欧州における鉄鋼業界脱炭素の技術パスウェイ
(図・表)EUROFER が想定した低・脱酸素への6つのパスウェイ
(表)Technology Readiness Level(TRL)レベル概要一覧
(表)欧州鉄鋼産業における脱炭素製鉄技術
中国、鉄鋼業界の CO2 排出量について 2030 年のピークアウトを見据える
インドは鉄鋼産業の拡大とグリーン化を指向も、両立は不透明
鉄鋼連盟を通じ、業界をあげてゼロカーボン・スチールの実現に挑戦することを表明
日本政府もトランジションファイナンス等の支援体制を強化
(表)2050 年カーボンニュートラルに関する日本鉄鋼業の基本方針
(表)カーボンニュートラルへの技術の道筋(CN に向けた低炭素・脱炭素技術 )
(図)カーボンニュートラルへの技術の道筋(技術ロードマップ)
(表)各国地域における政策動向(2015 年~2022 年)
(表)国際エネルギー機関(IEA)による鉄鋼業界の脱炭素ロードマップのシナリオ
第3章 鉄鋼業界のグリーンスチールへの取り組み
欧米では、電炉ルートによる低炭素鋼、自動車用高級鋼板に関連した投資が活発化
(表)欧州における高炉/電炉別粗鋼生産量
(図)欧州における低炭素鋼に関係する低炭素プロジェクト
脱炭素化のつなぎ役として、日本製鉄、JFE スチールが電炉投資に踏み切る
マスバランス方式によるグリーンスチールの市場投入も本格化
(表)日本における高炉/電炉別粗鋼生産量
欧州のグリーンスチール生産能力は 2030 年までに 1 億 t を超える見込み
(図)発表されている低炭素製鉄プロジェクトおよび生産能力
電炉シフトを背景に、原料スクラップに関わる動きも活発化
米国では銅の含有率の低い shredded scrap グレードの開発が進む
(図)Near-zero emission 鉄鋼生産を定義するためのバウンダリー
(表)スクラップを使用しないゼロエミッションに近い粗鋼生産
(表)スクラップを 100%の場合のゼロエミッションに近い粗鋼生産
(図)Near-zero emission 粗鋼における定義(鉄スクラップベース)
2022 年 11 月、欧米電炉メーカーが主導し GSCC を設立
「グリーン」を巡り、米・欧の政策決定機関への働きかけを強化
第4章 ユーザー業界におけるグリーンスチールのニーズ
表面化しているのは自動車業界のみ
本格的な市場形成には、建築・建設分野等、幅広い業界への訴求が課題
4-1. 自動車産業
サプライチェーン排出量の削減に向けた取り組みが日本でも本格的に動き出す様相
欧州メーカーではカーボンフットプリントを調達プロセスの要件とする動きが拡がる
2023 年以降、欧州を中心にグリーンスチールの供給がスタートする見込み
供給面から自動車メーカーの間でグリーンスチールの争奪戦が起こる可能性も
(表)OEM におけるカーボンニュートラル目標
4-2. 建築・建設産業
業界に拡がる ZEB・ZEH 化、RE100 の取り組み
デベロッパーからの要請の高まりを背景に、「電炉材の採用拡大」が俄かに動き出す
(表)建設・建築産業におけるカーボンニュートラル目標
4-3. 航空産業
持続可能航空燃料(SAF)への代替加速化には、国産 SAF の商用化が課題
(表)海外における SAF のインセンティブ制度
(表)ASTM D7566 規格の Annex 概要
(表)CEF 持続可能性基準(パイロットフェーズ(2021 年~2023 年))
4-4. 造船産業
ゼロエミッション船の実用化に向けた動きが拡大
(図)内航カーボンニュートラル推進に向けたロードマップ案
第5章 鉄鋼業界関連企業の展望と戦略
JFE ホールディングス株式会社
2050 年の CN 達成に向けてトランジション期とイノベーション期の
2 フェーズで脱炭素技術を積みあげる
気候変動問題への取り組みを経営最重要課題と位置付け、
2050 年 CN 達成を目指す
電気炉の増強等による鉄スクラップの利用拡大を図る
2025 年度下期から現地合弁会社を通じ中東での還元鉄(HBI)生産も計画
水素を利用したカーボンリサイクル高炉技術を含む超革新技術の開発に取り組む
グリーンスチール市場の構築・標準化に向け専門チームを設置
2030 年度には 500 万 t/年のグリーンスチール供給を見込む
日本製鉄株式会社
2050 年の CN 達成に向け
高炉水素還元、100%水素直接還元、大型電炉での高級鋼製造を推進
グローバル粗鋼 1 億 t/年を見据え、海外事業の深化・拡充にも取り組む
国内では自動車向けの超ハイテン鋼板、ハイグレード電磁鋼板の大型投資に乗り出す
2022 年 10 月に瀬戸内製鉄所広畑地区の新設電炉の商業運転を開始
世界初となる電炉一貫での最高級電磁鋼板の商業生産に乗り出す
2050 年に向けては、CCUS を用いたカーボンオフセットを取り入れる
2023 年にマスバランス法を用いたカーボンニュートラルスチール生産へ
東京製鐵株式会社
国内トップシェアの電炉メーカーとしてスクラップの 100%循環を目指す
国内鉄スクラップの高度利用を事業の柱とし、2050 年には 1,000 万 t 購入へ
Scope 1、2 排出量削減のロードマップは 6 つの施策を軸に推進
電炉の最大排出起因となるエネルギー消費では太陽光の利用に着目
Closed Loop の拡大、アップサイクルの推進に注力
自動車産業向けの「グリーン EV 鋼板」を 2025 年までに量産・供給
愛知製鋼株式会社
2050 年カーボンニュートラルの前倒しでの実現を目指す
2030 年までに CO2 排出量を 35%削減(2013 年度比)することを中期目標として設定
若手社員の参加も促し、会社全体でカーボンニュートラルを目指していく意識を醸成
Reduce、Reuse、Recycle、Renewable を視点とした独自技術の開発を推進
自動車の 100%リサイクルを目標とした、トヨタグループと連携による技術開発等を推進
2022 年より再生可能エネルギー電気を導入し、カーボンニュートラル工場へ順次移行
排熱を回収し、鉄スクラップの予熱に利用する独自技術の開発に取り組む
中部鋼鈑株式会社
電気炉技術を徹底的に突き詰め
厚板の生産拡大と 2050 年のカーボンニュートラル達成を目指す
60 年ぶりの電気炉更新を決定、2023 年度秋より稼働へ
2024 年度に生産能力を 80 万 t/年に、中長期的には 100 万 t/年体制へ
熟練された技術により幅広い品種の鉄スクラップも使いこなす
2021 年 4 月、中山製鋼所と包括的業務提携契約を締結
高炉メーカーによる電気炉導入は、電気炉鋼材の認知度向上につながるとの見解
日産自動車株式会社
2050 年のカーボンニュートラル達成を長期ビジョンとして策定
リサイクル、リユース、リペア、リビルドで「最適なクルマ作り」を目指す
20 年以上にわたり、ニッサン・グリーンプログラム(NGP)を推進
NGP2022 では「気候変動」を重点分野と位置付け、電動化、省資源化等に取り組む
2022 年中のグローバル生産拠点で 30%、新車で 40%の CO2 排出削減がターゲット
生産時の CO2 排出だけでなく、サプライヤーサイドの CO2 排出も注視
3 ウェット塗装技術によるバンパー/ボディの同時塗装で生産時の CO2 排出量を削減
再エネ投資は、サプライヤー団地の整備と組み合わせたモデルをグローバルで推進
2022 年は 30%、2050 年には 70%の材料を「新規採掘資源」に依存しないものへ
鉄・アルミ・樹脂材料毎に低 CO2 化の取り組みを推進
ZF Group
2040 年までの Scope1~3 でのカーボンニュートラル達成を標榜
CO2 排出の恒久的な削減・回避に向けて積極投資
Scope1~2 では「エネルギー効率」と「グリーンエネルギーへの転換」が重点テーマ
ZF グループの定義するグリーン電力の調達で年率 2%向上へ
サプライヤーと一丸になり Scope 3 の 2019 年比 40%減を推進
2023 年半ばにも Cradle-to-Gate PCF を生産財調達の必須条件に
鋼材では、EAF ルートによる低炭素化に注目
2025 年より 25 万 t/年規模でグリーンスチールの調達を開始
株式会社クボタ
カーボンニュートラル対策として、キュポラの電炉化を推進
ESG を経営の中核に据えた事業運営への転換を掲げ、独自の ESG 施策を推進
2030 年に向けた Scope1, 2 の CO2 排出削減目標を 2014 年比 50%削減に上方修正
2023 年にダクタイル鉄管の主力拠点である阪神工場(武庫川)に電気炉 3 基を導入
京葉工場(千葉県船橋市)についても 2023 年以降電炉の導入を検討する方針
大和ハウス工業株式会社
社会に役立つ事業を通じて売上高 10 兆円の企業群への成長を目指す
2016 年にカーボンニュートラル達成を盛り込んだ「Challenge ZERO 2055」を策定
EGP2026 の取り組みを通じ、2030 年にバリューチェーン全体で CO2 を 40%削減
まちづくり、事業活動、サプライチェーンにおいてチャレンジ・ゼロに向けた施策を展開
サプライヤーチェーンにおける CO2 排出量算定方法の見直しが課題
CSR 調達の枠組みの中で、サプライヤーに対し低炭素材料の使用を促進
電炉材の採用増加を見据え、2022 年度に「ゼロスチールワーキンググループ」を設立
再エネの自給自足により、2023 年にも RE100 を達成する見込み
大和ハウス単体の再エネ利用率は 2021 年度 54%に到達
日本航空株式会社
2050 年のネット・ゼロエミッションに向け
省燃費機材への更新、運航の工夫、SAF の活用を推進
2030 年には全燃料搭載量の 10%を SAF に置き換える計画
日本国内での燃料搭載分の確保も課題
2022 年 3 月、業界の垣根を超え「ACT FOR SKY」を設立。SAF の認知度向上に取り組む
客室・ラウンジでの使い捨てプラスチック全廃を掲げ、3R+1(Redesign)に注力
「航空機の最後」にも問題意識