IoT時代の次世代ものづくりとソフトウェア


製造業が変化の入り口に立っている。それも、ひょっとすると、18世紀半ばから19世紀にかけて起きた「産業革命」に匹敵する変化かもしれない。その中心にあるのは、ドイツ政府が進めるインダストリー4.0と米GEが手掛けるインダストリアルインターネットである。

インダストリー4.0とは、ドイツが進める製造業高度化に向けた産学共同のアクションプランである。機械化、電力の活用、コンピューターによる自動化に次ぐ第4次産業革命との位置付けで、ドイツ製造業の競争力維持が目的となっている。

インダストリアルインターネットはGEが提唱する新しい製造業の姿だ。高度なセンサーやソフトウエアで機器や施設、車両、航空機などを接続し、そこから得られたデータを使って、これまでにない効率性や新サービスを実現しようとするものである。GEは2015年4月に金融事業部門GEキャピタルの売却を発表して話題となったが、その背景にはインダストリアルインターネットを旗印とする製造業回帰へとかじを切ったことがあり、本気度が感じられる。GEの取り組みは、製造業のサービス業化を図る可能性を秘めており、日本でも注目度が高い。

国内に目を向けると、IoT(インターネット・オブ・シングス=「モノのインターネット」)の分野ではセンサーへの注目が集まっている。インダストリー4.0やインダストリアルインターネットなども同様で、国内ではセンサーデータの収集や分析を通じた技術革新や新たなビジネスモデルが論点になっていると感じられる。しかし、筆者が注目しているのはセンサーではない。最終的に勝負を決するのはソフトウエアだと考えている。

ソフトウエアの観点から新たに認識すべきものとして、「デジタルツイン(電子的な双子)」がある。これは全く同じ工場・製品をバーチャルに再現することを指す。リアルな工場や製品に対し、デジタルで構築された双子という意味となっている。

このバーチャルな工場や製品は、センサーデータとひも付けることで実際と同じ動きを再現できるようになる。そうなれば、製品設計や工場レイアウトの際に、あたかも現物を使ってシミュレーションするかのごとく、コンピューター上で設計検討などを行えるようになる。これは製造業のコンカレントエンジニアリング*実現に大いに役立つ。いま大手CADベンダーなどはこぞってソリューション開発に注力している。

これを実現するには、製造現場からの情報を上流工程へと引き渡さねばならない。しかし、日本では製造現場のデータが設計側や経営側と連携していないケースが多い。せっかくセンサーを製造現場に導入しても、そのデータは現場レベルにとどまり、可視化しても、全体最適を目指した効率的な事業運営の実現に役立たないのである。

現場で発生するデータは今でもかなりの量となっている。まずはそれを全社レベルでウオッチできる状態をつくる方が、新たなセンサーを導入するより、はるかに重要なのではないかと感じている。次世代ものづくりに向けて、ソフトウェア活用の議論が進むことを期待したい。

*コンカレントエンジニアリング:デザインや設計、設備計画などを同時並行的に進める開発手法

2015年8月 主任研究員 忌部 佳史

株式会社共同通信社「Kyodo Weekly」2015年7月20日号掲載


コメントを残す