3Dプリンターへの期待
第3次3Dプリンターブームの到来
先の大学職員によるピストル製造でも問題になった3Dプリンターであるが、その歴史は意外に古い。世界で最初に3Dプリンターを開発したのは日本の名古屋市工業研究所で、1980年にまで歴史はさかのぼる。そして1980年後半から米国企業が相次いで特許を出願し、1987年に米国3D Systemsが3Dプリンターの事業化に初めて成功した。その後、我が国の企業も相次いで市場参入を行い、第1次3Dプリンターブームの到来となった。
なお当時は3Dプリンターという名称ではなく、一般的に光造形装置と呼ばれていた。この装置は、光(紫外線レーザー)を照射することで硬化する紫外線硬化樹脂を用いた造形法で、試作品製造やノベリティグッズなどの用途を中心に日米欧でそれなりの普及を見せた。
その後、様々な方式による3Dプリンターが開発され、工業用として徐々に普及が進み、2007年頃の第2次ブームを経て、現在は第3次ブームの到来と言われている。この第3次ブームは、2013年2月に米オバマ大統領が、一般教書演説で「3Dプリンターを活用してアメリカに製造業を呼び戻す」と宣言したことを、一般メディアが大きく取り上げたことで、再び3Dプリンターブームに火が付いたわけである。
我が国における3Dプリンターの取り組み
このオバマ大統領の発言に対する我が国の反応は大きかった。2013年6月の内閣府による「科学技術イノベーション総合戦略」では、この3Dプリンターを重点的に取り組むべき課題として位置づけた。具体的には、生産技術等と活用した産業競争力の涵養として、「文科省、経産省により、三次元造形等の高度な生産技術を開発する。それらを地域のものづくり産業に適用し、競争力強化と新たな付加価値の創造を実現する。」としている。今後の開発ロードマップは以下のとおりである。
- (2016年) 最終目標スペックの50%の3Dプリンター試験装置の完成
- (2020年) 造形速度が現在の約10倍、造形精度が約5倍の高速・高性能3Dプリンターを実用化
- (2020年~) 自由で複雑形状の高付加価値製品、これまで実現できなかった高機能製品を3Dプリンターで製造
樹脂材料から金属、セラミックスへ
一般的に、3Dプリンターで製造できる材料は樹脂であるが、鉄系材料、ステンレス、アルミ、チタン等の金属材料や、セラミックスでも対応可能な3Dプリンター装置が実用化されつつあり、徐々に3Dプリンターの適用領域が拡大していく方向にある。3Dプリンターを使えば、複雑形状の金型の製造が可能になる。また、自動車の分野ではアルミのエンジン部品開発で試作部品製造に期待がかかる。航空宇宙ではジェットエンジンのタービンブレードや構造部品が金型なしで製造することができる。そのほかに医療分野では患者毎に最適にデザインされた人工股関節や人工骨、インプラント材などの製造が可能になる。
問題は、3Dプリンターのハード技術・ソフト技術で、今のところ欧米企業が圧倒的に先行していることである。特に今後の有望分野である金属加工では世界トップの米国の3D Systemsの他、ドイツのEOSとConcept Laser、スウェーデンのArcamなど、ハード技術の有力どころはすべて欧米企業となっている。また、ソフトの分野でも金属分野では米国のMaterialiseの「Magics」が業界のスタンダードとなっている。
我が国では、今後、国を挙げての研究開発プロジェクトが何本か走り始めているが、先行するこれらの欧米企業に追い付き追い越すにはかなりのパワーが必要である。
2014年6月 理事研究員 杉本 武巳
株式会社共同通信社「Kyodo Weekly」2014年7月7日号掲載