神戸製鋼の不正問題、法令違反ではない契約違反に関するもう一つの視点
神戸製鋼の品質データの改ざん問題で、不正な製品の納入先525社のうち9割の470社で安全性が確認された。日本企業の品質管理体制に疑念を抱かせたこの問題の背景には、利益重視の経営姿勢、納期遵守を求める取引先の圧力、硬直した組織、経営と現場の乖離等を指摘できるが、いずれにせよ不正の常態化に弁解の余地は一切あるまい。
一方、JIS規格より高いレベルに自社の安全基準を設定し、更にそれを上回る品質を要求した発注者側の要求仕様はそもそも妥当であったのか、という問題もあわせて考えてみる必要がある。今回の事件では納入業者が神戸製鋼という“大企業”であり、したがって、契約段階において発注者側に“優越的地位の濫用”があったとは思えない。しかし、発注者である親事業者と下請としての納入業者の関係を鑑みれば、多くの取引において、例え必要以上に高い要求であっても受け入れざるを得ない現実があることも否めない。
公正取引委員会によると今年度上半期における下請法違反に関する勧告、指導件数は4098件に達する。内訳は「支払い遅延」55%、ついで「買い叩き」21.5%、「減額」8.8%が上位を占め、下請事業者が被った不利益の原状回復金額は24億円となったという。
ただし、ここで言う「減額」は“下請事業者側の責に帰すべき理由がない”場合の「不当な減額」であって、つまり、そもそも“適正とは言い難い契約条件を満たせなかった”場合の「正当な減額」は含まれない。公正、対等な取引の原点は両者が合意した「契約内容の適正さ」にある。その意味で品質への信頼回復は親事業者と下請事業者、両者のコンプライアンス(倫理・法令順守)そのものにかかっていると言えよう。
今週の”ひらめき”視点 11.19 – 11.23
代表取締役社長 水越 孝
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