日本のものづくりを支えてきた“2つの厚み”の強化が日本再興のKFSである
文部科学省は来年度予算の概算要求で人口知能(AI)など先端技術教育を担う実務家教員の育成やデータサイエンスなどの実務型講座の拡充に予算を計上するという。
先端技術の急速な進歩はその応用領域を格段に拡大させる。しかしながら、現場サイドの技術者不足と知識レベルのギャップは大きく、したがって、“実践”にウェイトを置いた教育の強化に異論はない。
とは言え、技術教育が短期的な成果に極端に動機づけられることの弊害も大きい。国立大学法人における博士課程の入学者数はこの5年間で4割も減少した。施設設備の予算は過去最低の水準であり、科学研究費助成事業の1課題あたりの平均分配額も減額が続く。全米科学財団が発表した2016年の世界論文数ランキングでは日本は6位に後退、米国を抜いてトップとなった中国の22.6%に止まる。
日本のものづくり産業を支えてきたのは広範な基礎研究の厚みである。確かに欧米と比べて研究成果のマネタイズは得手ではない。しかし、産業の国際競争力を長期的に維持するためには実践と基礎研究をトレードオフの関係にすべきではない。
一方、日本の産業を支えてきたもう一つの厚み、中小企業もまた危機に直面している。2025年には経営者の7割が70歳を越え、その半数に後継者がいない。このまま放置されるとGDPの22兆円、650万人の雇用が失われる。経産省は2019年度予算に中小企業対策1352億円を計上するという。しかし、大企業のサプライチェーンに組み込まれたままのビジネスモデルを未来へ延長するための施策であっては衰退の引き伸ばしに過ぎない。外部資本の導入、非親族の経営参画、そして、世界に通用する技術と知材の獲得が中小企業の活性化を促す。
研究者と中小企業の多様性、自立、クオリティの維持、強化は、すなわち日本産業の厚みを維持、強化することと同義である。基礎研究投資と中小企業対策はまさに成長戦略の中核施策として一体的に議論されて然るべきであり、省庁と短期的な効率を越えた次元での予算枠と制度設計に期待したい。
今週の”ひらめき”視点 8.26 – 8.30
代表取締役社長 水越 孝
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