次世代自動車普及とリサイクル対応


次世代自動車として注目を集める電気自動車は2010年より本格的に販売が開始され、今後急速に市場が拡大していくことが想定される。その電気自動車はプラグインハイブリッド自動車含めて2020年には乗用車新車販売台数(*1)の15~20%(*2)にすることが政府目標として立てられている。

その電気自動車が普及するにつれて、使用済みとなった電池をどう処理するかという問題が発生してくる。電気自動車に搭載される電池の寿命がどの程度になるのかにもよるが、5~10年後には多くの使用済み電池が回収されるものと見られる。

電気自動車を発売する自動車メーカーでは電池メーカー等と協同で回収ルートを構築しているが、日産自動車では、電池リサイクルの新会社も2010年9月に設立している。電圧が低くなり電気自動車用として使用できなくなったものも含めて、再製品化し、太陽光発電との組み合わせによるエネルギー貯蔵やバックアップ電池としての利用を想定しているのである。その中、東日本大震災と福島の原発事故の影響で大規模な計画停電が行なわれ、スマートグリッドへの関心が高まっている。蓄電池市場の拡大により、電気自動車から回収された電池の再利用価値が高まることも考えられる。2次利用価値を見越すことにより、電気自動車価格の大部分を占める電池コスト低減につながることが期待でき、電気自動車のさらなる普及につがなることにもなる。

ただ蓄電池市場がどの程度拡大するかは未知数であり、回収した電池の全てが再利用できるとは限らず、最終的には廃棄物となるためリサイクル対応の重要性も大きくなっていく。

現在、携帯電話等に搭載されているリチウムイオン電池の正極材料にはコバルト系が採用されているが、電気自動車となると高い安全性が求められる。そのため耐熱性に難点があるコバルト系ではなく、安全性の点から、過充電に強く、高い温度安定性があるマンガン系が主力になると目されている。また電気自動車には大量のリチウムイオン電池が搭載されるため、高価格であるコバルトの採用は難しく、埋蔵量が豊富であり、安価なマンガンのほうが製造コスト点でも大きな優位性となっている。

しかし、リサイクルという観点で見ると、マンガンは材料としての価値は小さいことになる。現在、携帯電話等から回収された小型リチウムイオン電池は、破砕、磁力選別や比重選別の物理的選別の後、溶媒抽出の湿式精錬を用いて、コバルト等を合金や金属、化合物の形で回収している。一方、現状主流になると考えられているマンガン系も、同じく湿式精錬法を用いて、マンガンを始めとした金属をそれぞれ抽出することは可能であるが、経済合理性が成り立たないという公算が高い。小型リチウムイオン電池には2~3割程度のコバルトを含有しているが、マンガン系となるとコバルトの含有割合は僅かなため、複数の工程が必要となるリサイクルは採算性が合わないというのである。

既に幾つかの大手精錬業者が自動車用を含めた大型リチウムイオン電池のリサイクル事業の開始を予定しているが、リサイクル費用が発生することが想定され、それを誰が負担していくのかという問題も発生することになる。

つまり経済合理性を伴わないリサイクルは成立しないということになるが、国内では成立しなくても海外では成立するケースも考えられる。同じ自動車部品であるワイヤーハーネスでは、その回収量のおよそ9割は中国等に輸出されて、リサイクルされているといわれる。電気自動車のモーター部分には銅が使われるが、需要の高まりによって銅の供給不足が懸念されており、銅からなるワイヤーハーネスのリサイクルの重要性も高まっている。

そもそもコバルト、マンガン、リチウム等をはじめとしたレアメタルは中国や南アフリカ等の一部の産出国に偏在しており、輸入に頼っているわけであるが、市中発生したものも輸出されるとなると、再び原料を輸入しなくてはならない事態になる。

レアメタルの価格は相場に左右されるため、安定的とは言えず、かつ電気自動車から発生する電池は少なくても5年以上後となる。またマンガン系リチウムイオン電池となると経済性の点からもリサイクルへの対応がとりづらい側面もあるが、非鉄金属における資源戦略を踏まえたリユース、リサイクルへの体制を構築することが今後ますます重要となっていくと考えられる。

(*1)2010年乗用車販売台数 421万台(日本自動車販売協会連合会データより引用)
(*2)「次世代自動車戦略2010」(経済産業省データより引用)

2011年8月 主任研究員 関口 太一


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