食品市場における参入企業の成長戦略


他産業に比べ不景気でも強いとされる食品産業であるが、人口減少、少子高齢化の進展の中で市場は僅かながらも縮小基調にあり、矢野経済研究所推計で加工食品総市場は2009年度に30兆円を割り込んでいる。調理の省力化ニーズを捉えた惣菜の素や調理食品、新たな食提案として注目されるゼリー状調味料など、加工食品の分野において、消費者ニーズの獲得、潜在需要の喚起が奏功し、活性化しているカテゴリーが見られるものの、食品市場全体では、総需要の減退傾向が続くことが予想されることから、成長は見込みにくい状況にある。

上述のような状況下において、国内の食品メーカーが新たな成長戦略として掲げているのが、主にアジアを中心とした海外マーケットの開拓、国内事業では、通信販売などの新たな販売チャネルの開拓、特に中高年齢層における需要が高まっている健康に配慮した食品事業の育成である。

海外マーケットに関しては、以前より海外マーケットの開拓を積極的に行ってきた企業を除き、近年、本腰を入れはじめた、または今後の開拓に向け準備を進めている企業が多い。売上高に占める海外事業の構成が1割未満の企業がまだ多いなど、日本の食品メーカーの海外展開はこれからといった様相である。特に日系企業は、従来、高品質・高付加価値を武器に、高所得者層の開拓を狙う動きが中心であったが、特にアジア圏の経済成長に伴い、所得水準の向上が見込まれることから、今後はボリュームゾーンである低・中所得者層の開拓が大きな課題と見られる。また、海外事業の拡大に伴い、グローバルに活躍できる人材の育成も緊切の課題となりつつある。

国内については、通信販売が大きく市場を拡大しているほか、近年、健康食品の市場が拡大している。特に健康食品(錠剤、カプセル、粉末、ミニドリンク形状の健康維持・増進、美容などを目的とした食品)市場を見てみると、2010年度の市場規模は前年度に比べ3.0%増の6,960億円、2011年度は同2.1%増の7,105億円にて着地するものと予測している。健康食品市場全体を牽引しているのが通信販売であり、2010年度の市場規模は前年度対比12.7%増の2,630億円と大幅に伸長した(矢野経済研究所推計)。中高年齢層における健康、美容・アンチエイジング、エイジングケア意識が年々高まりを見せており、これらのニーズを満たす商品が通信販売を中心に売上を伸ばす傾向が見られる。上述のように、日本の食品産業においては数少ない成長分野であることから、大手食品メーカーが通信販売を中心に参入、事業の育成を図る傾向が強まっている。ただし、健康食品の通信販売は参入障壁が比較的低く、薬品・化粧品メーカーなど、幅広い業種・業態からの異業種参入が活発である。さらに、一般食品が味や食感などの味覚が重視され、メーカーの技術力・商品開発力が大きなポイントとなる一方、健康食品は、商品自体の差別化が図りにくい。よって販売企業は、商品の高品質性に加え、企業姿勢のPR、芸能人などの有名人をイメージキャラクターとして起用するなど、消費者に選ばれるための広告戦略、イメージ戦略に注力している。

矢野経済研究所で2011年12月に実施したインターネット消費者調査では、40代から70代の各世代において、約3割が現在健康食品を摂取しているとしており、年代が高くなるにつれ摂取している割合が上昇する傾向にある。また、現在は摂取していないものの、必要に応じて摂取するとした回答も2割以上に上るなど、中高年齢層の5割以上は、必要に応じて健康食品を摂取する傾向が明らかになっている。総人口は減少するものの、65歳以上の人口は2040年頃まで増加を続けると予想されており、今後も健康食品に対するニーズが高まるものと見られる。競合が激しさを増す健康食品市場ではあるが、高まる需要を獲得し、企業の成長に繋げようとする動きは今後も更に活発になることが予想される。

2012年2月 主任研究員 飯塚 智之


コメントを残す