物価に対する意識の世代間ギャップ


2013年12月の消費者物価指数(総合値)は前年同月比1.6%と7ヶ月連続で上昇した。2013年年間では前年比0.4%増で、前年を上回ったのは4年振りである。これは、主に円安を背景とした輸入価格の高騰や原油高によるものだが、物価は上昇基調にある。これからの物価見通しが良く話題になるが、物価に対する意識は世代によって違いがあるようだ。

日本の消費者物価指数は、1995年以降ほとんど上がっていない。1997年に前年対比1.8%上がっているが、これは消費税率が3%から5%へ引き上げられた特別な事情である。当時は物価が上がるどころか、1999年以降5年連続して物価が下がっている。
人が生活実感を得るのは、社会との接点を持ち始める18歳前後だろう。物価が上がらなくなった1995年当時に18歳だった人は現在30代半ばである。つまり、30代半ばより若い人は、「物の値段が上がる」ことを経験したことがない世代である。この世代にとって物の値段は上がらないことが常識である。同時にバブル経済崩壊後の不況下で、賃金もほとんど上がっていない。

一方、1995年以前には消費者物価は一貫して上がり続けていた。特に1970年代初めのオイルショック時は年率10~20%の物価上昇を記録した。当時10代後半であった現在の50代後半の層には強烈な物価上昇体験が刷り込まれている。その後も物価上昇はバブル経済崩壊後の1990年始めまで続く。年代では現在の40歳代より上の世代は、「物の値段が上がるのが当たり前」だったことを経験した世代である。その後、デフレの時代を迎え、20年近く物価が上がらないが、若い時に「物の値段は上がる」という原体験を持つ。

この原体験の違いが、物価に対する意識の世代間ギャップを生じさせているようだ。物価は上がるのが当たり前で下がるのは異常な状況であると認識する世代と実体験として物価が下がることが当たり前だった世代とではお金や物に対する感覚に違いが生じるのは当然だろう。若年層の消費意欲がなくなったと言われるのは、こんなところにも要因があるのかも知れない。物を持っていても価値は上がらないし、後でより安くて良いものが登場してくる。それならば今買う必要はない。物の値段は、今も将来もほとんど変わらない。
こうした「物価上昇未経験」層の人口ウェイトは年々増している。18歳~60歳層68百万人の4割弱が、「物価上昇未経験」の35歳以下の層である。今後も物価が上がらなければ、「物価上昇未経験」層は益々拡大する。

物価と賃金を上げることでデフレから脱却して、景気を上向かせるのが、政府の経済政策の柱だが、今まで経験のない物価や賃金が上がることにどれだけ現実味を感じるだろうか。デフレ脱却のためには、明日は変わるという意識を広め、将来への期待を示すことが重要だろう。

消費者物価指数の推移(前年比)

2014年3月 理事研究員 遠藤 孝彦


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