医薬品卸各社は、市場の低迷が長期化する状況をいかに克服するのか
~新規事業やアライアンスを強化し、新たな企業像確立を目指す医薬品卸各社~
1.調査結果概要
薬価制度はこれまで製薬業界や医薬品卸業界の成長にとって欠かせない存在であった。それは多くの場合、医薬品が薬価収載されることで一定の売上を上げることができたからだ。しかし、抗体医薬や遺伝子治療薬などはこれまでの低分子医薬品と大きく製造法や効果が異なり、高薬価が付く新薬が市場に登場してくるようになった。そのため政府としては市場環境変化に対応した薬価制度にするため、これまでの制度の抜本的な見直しを行うことになった。
2017年12月20日、薬価制度の抜本改革に関する骨子が中医協総会で了承された。抜本改革の骨子では、新薬創出等加算と長期収載品の薬価の抜本的な見直しが行われた。今回の抜本改革で多くの製薬企業の経営状態が悪化する恐れがあることから、医薬品卸はこれまでのように医薬品販売によって同様の利益を得ることが困難になることが予想される。また、医薬品卸にとっては新たな企業像を確立しようとするのであれば、早期に取り組むべき必要な項目が数多く存在する。検討のみに終始し結論を先送りにする、あるいは他社の出方をみた上で実施するということなどでは、経営基盤強化が遠退くばかりだ。経営陣のそのような姿勢は、現場の意識にも反映されることになり、変革期を自社の経営体質改善・強化に導くことができなくなる。今、医薬品卸各社に求められることは、過去の延長線上で未来を描くことではない。そのためその動きに賛同してくれる得意先や企業との関係を強化し、新たな市場開拓を積極的に行うことが必要だ。
2.注目トピック
どこまで政府は医薬品費をコントロールできるのか
『薬価制度の抜本改革』については、毎年の薬価調査と毎年の薬価改定、効能追加等による市場拡大への速やかな対応、新薬のイノベーション評価(新薬創出・適応外薬解消等促進加算)の見直し、外国平均価格調整の見直し、費用対効果の導入、長期収載品の見直しと後発医薬品価格の集約化が実施されることになった。
このような内容からも明らかなように、政府としては「イノベーションの適切な評価をする」と言いつつ、新薬の薬価の高止まりや長期収載品から後発医薬品への移行が大きく阻害されないようにすることを重視し、医薬品費の一定のコントロールを可能とする改革を行った。製薬企業側としては『新薬創出等加算』は残ったものの、平均乖離率以下の要件が廃止され、新規作用機序品や画期性加算などの加算適用品が対象となったことや、製薬企業の国内試験実施数、過去5年の新薬収載実績などを指標に、新薬開発への取り組み状況に応じてポイント化を行うことになるなど厳しさが増した。
2019年2月20日、薬事・食品衛生審議会の専門部会においてノバルティス ファーマ株式会社が申請したCAR-T療法『キムリア』について、再生医療等製品として製造販売することが了承された。同剤は、米国では1回の投与で約5,000万円と超高薬価が付いた。わが国では、患者1人当たり3,349万3,407円となった。政府としては、『ドラッグ・ラグ』が生じないようにするためには、イノベーション評価の体制を維持する必要がある。そのため、最初から高額医薬品の薬価を著しく抑制することはできにくい。しかし、今後どれだけの高額医薬品が登場するのか定かではないことを考慮するならば、政府として安閑とはしていられない。今回設けられたハードルを活用し、その枠内での対応ができなくなれば、新たな対応策を講じることになるだろう。
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配送体制見直しの可能性
新規事業の成長こそヘルスケアプラットフォーム確立の道
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事業モデルの変革を推し進め、プラットフォーム構築を目指すアルフレッサホールディングス
顧客起点のビジネスモデルの構築を強化するメディパルホールディングス
協業により新たなビジネスモデルの構築を目指すスズケン
BCPと顧客支援システムのさらなる拡大によって体質強化を図る東邦ホールディングス
地域において不可欠な存在となるべく医療・介護事業を強化するバイタルケーエスケー・ホールディングス
調査要綱
2.調査対象: 製薬企業、医薬品卸、医療機関、薬局、行政当局、学識経験者等
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談、ならびに文献調査併用
<医薬品流通市場とは>
本調査における医薬品流通市場とは、医療用医薬品を主とした流通市場を指し、製薬企業や医薬品卸等の関連企業の動向および将来展望を明らかにした。
<市場に含まれる商品・サービス>
医療用医薬品
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