車載用バッテリーを巡るデータのオープン化についてブロックチェーンを活用した際の仮説を提示
1.調査結果概要
電気自動車(EV)の車載用バッテリー(電池と車載充電器などの車載電池システム)には正極材に使われるニッケルやリチウム、コバルト、グラファイトなど数種類のレアメタルが含まれる。こうしたレアメタルの産出地域は、世界的に偏在していることから、供給の安定性や確実性に課題があるとされる。
こうした状況を改善すべく、廃棄された電子機器等からレアメタルを回収、再利用に繋げる動きが積極化してきている。こうした車載用バッテリーに係るレアメタルについて、鉱山からの採掘から製造、販売、リユース、リサイクルに至るまでの一貫した流れをトレース(追跡確認)するための手段の一つとして、ブロックチェーンの活用が適するとされ、MOBI(Mobility Open Blockchain Initiative)を筆頭にさまざまな事業者が取り組みを始めている。
そうしたなか、車載用バッテリーの劣化要因を把握すべく、現在、自動車メーカー各社は環境条件や充放電などの使用条件等を車載用バッテリーの使用履歴データベースとして蓄積し、劣化状態を評価している。ただし、こうした計測データの中には走行履歴情報が含まれており、個人情報保護の観点から開示が困難として、データの共有はされていない状況にある。
また、故障時におけるデータは、整備工場においてOBD2(車載故障診断装置)から取得する電子制御に関するデータから原因、点検項目を確認しているが、自動車メーカー各社は系列ディーラー系工場に対して自社製の独自計測ツールを提供していることから、計測ツールは各社で異なるものが使用されている。一方、外資系自動車メーカーをはじめとした複数メーカーの車種の整備については、系列工場を有していないことから、対応可能な整備工場において汎用の計測ツールを利用し修理を行っている状況である。
2.注目トピック
本調査ではこうした自動車メーカーごとにクローズドな状況にある車載用バッテリーのデータについて、データのオープン化を前提にブロックチェーンを用いたデータの活用方法について仮説を提示する。
具体的にはブロックチェーンを中央に据えたうえで、左側は「データの提供領域」とし、右側は「データの活用領域」とする。データの提供領域は車載用バッテリーメーカーや自動車メーカー(OEM)、整備工場、充電ステーション運営事業者などを位置付けた。同領域の事業者は次に示すデータをブロックチェーンに提供することを想定する。
【登録対象として考えられる主たるデータ】
①車載用バッテリーメーカー:出荷検査時の充放電データ
②自動車メーカー:受入検査や出荷前の充放電検査データおよび走行中の車載用バッテリーデータ、SOH(State of Health:劣化状態)情報
③整備工場:修理対応に係るデータ
④充電ステーション:車載用バッテリーの残量データ
一方、右側はブロックチェーン上に登録されたデータを活用する側であるが、主に「データの活用領域」と「データの取引領域」に大別されると考える。データの活用領域については、劣化診断や寿命予測を中核情報として、診断結果や寿命の情報をベースにBaaS(Battery as a Service)サービス※や中古車の査定、リユース電池への活用、保険、そしてV2H(Vehicle to Home)などへと拡充していくことになるとみる。なお、データの活用にあたって、車載用バッテリーは自動車メーカーにとって大きな差別化要因となるため、競合同士のデータが見られないよう閲覧権限を付加した形が望ましいと考える。
次に「データの取引領域」が出てくるとみる。現状、電気自動車(EV)の車載用バッテリーに蓄えられている電力は住宅の分電盤に接続し、家庭内の照明や家電製品などを動かす電力として使用することが一般的である。将来的には、蓄積されたエネルギー(電力)間の使用状況に関するデータを取引することで、家庭内といった限られた環境内だけではなく、例えばEVでの外出時に充電ステーションで充電する際、自宅の余剰電力を充当することも期待される。
※BaaSサービスとは、EVユーザーが車の車載用バッテリーを保有するのではなく、交換ステーションで充電済みの車載用バッテリーと入れ替えながら利用する仕組み
オリジナル情報が掲載された ショートレポート を1,000円でご利用いただけます!
【ショートレポートに掲載されているオリジナル情報】BCパターン
調査要綱
2.調査対象: IT事業者、ブロックチェーン関連事業者、計測事業者、中古オークション事業者等
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、電話・e-mail等によるヒアリング調査および文献調査併用
<電気自動車(EV)における車載用バッテリーにおけるブロックチェーン活用可能性とは>
本調査では電気自動車(EV)の車載用バッテリーのデータ活用について、トレーサビリティ(追跡確認)技術として注目されるブロックチェーンを活用した際のデータの活用方法についてデータのオープン化を前提に仮説を提示する。
なおブロックチェーンとは、利用者同士をつなぐ P2P(ピアツーピア)ネットワーク上のコンピュータを活用し、権利移転取引などを記録、認証するしくみである。データの改ざんができないため、真正性が保証されているほか、ブロックチェーンに記録されたデータは消えることがない。こうした性質を活かすことでデータのトレーサビリティが可能となり、透明性の高い取引を実現できるなどの特徴を持つことから、金融分野や流通分野を中心に活用されている。また複数組織にまたがるデータを改ざんできない形で共有したい場合などに有効とされ、データの共有に際して閲覧に制限をかけることも可能である。
出典資料について
お問い合わせ先
本資料における著作権やその他本資料にかかる一切の権利は、株式会社矢野経済研究所に帰属します。
報道目的以外での引用・転載については上記広報チームまでお問い合わせください。
利用目的によっては事前に文章内容を確認させていただく場合がございます。