2023年度の国内健診・人間ドック市場規模は前年度比0.7%増の9,440億円と予測
~健康・予防に対する意識は高まり市場は微増推移の見通し、ICT活用による健診業務の効率化が健診施設の課題~
1.市場概況
法定健診には、地方自治体が実施する住民健診や、企業・団体等が従業員向けに実施する定期健診、結核・肺がん検診、母子健康法・学校保健法などに基づく健康診断、後期高齢者向けの高齢者健診などが含まれる。そのうち、40歳以上74歳以下の公的医療保険加入者全員が受診する特定健康診査(以下、特定健診)が、生活習慣病の早期発見・治療を目的として2008年から実施されている。その他、利用者が任意で受診する人間ドック等の任意健診も実施されており、本調査における健診・人間ドック市場はそのいずれも対象として算出した。
わが国では、国策として健康寿命の延伸と高齢者の自立した生活を実現するための未病・予防に向けた取り組みが進められている。「未来投資戦略2017」の中短期工程表では、KPIとして2020年度までに健診・人間ドックの受診率(40~74歳)80%(特定健診も含む)を掲げている。
一方、厚生労働省の2022年度「国民生活基礎調査」によると、40~74歳の男女が過去1年間に健診(特定健診や人間ドックも含む)を受診した割合は73.1%であり、健診・人間ドックの受診率は年々上昇傾向にあるものの目標には至っていない。
また、厚生労働省の特定健康診査・特定保健指導に関するデータによると、特定健診・特定保険指導の受診率も同様に、2021年度の受診率は特定健診で56.5%、特定保健指導が24.6%と年々向上しているものの、国が掲げた目標(特定健診受診率70%以上、特定保健指導同45%以上)とは引き続き乖離がみられる。そのため、2024年度から開始となる第4期特定健診・特定保健指導に向けて、特定健診・特定保健指導の受診目標の見直しや主に標準的な質問項目の変更、特定保健指導のアウトカム評価の導入、ICTの活用を推進していく方針が示され、健診施設や保険者(健保組合等)に対しては効率的かつ効果的に健診の実施が求められている。
2.注目トピック
人間ドックのオプション検査は健診施設の差別化要素の1つ
健診施設では、受診者受け入れ拡大のための他施設との差別化ポイントの1つとして、受診者のニーズに対応した人間ドックのオプション検査を導入することで、受診者の獲得を図っているとみられる。本調査に関連し、2023年8~9月に健診実施施設に対して郵送アンケート調査を実施し、106件の回答を得た。
人間ドック標準検査以外のオプション検査として実施件数の多い検査項目(複数回答)について尋ねたところ、「PSA(Prostate Specific Antigen=前立腺特異抗原)検査」の回答が最も多く46件(構成比43.4%)であった。次いで「上部消化管内視鏡検査」が41件(同38.7%) 、腫瘍マーカーである「CEA」および「CA19-9」が34件(同32.1%)と続いている。その他、他の腫瘍マーカーや婦人科領域、脳神経領域の検査も比較的多い傾向がみられた。
また、今後注力していきたい分野を尋ねると、「人間ドック」という回答が多く挙げられ、2021年調査同様に人間ドックが注目される分野・市場であることが示唆される結果となった。
3.将来展望
2022年度の国内健診・人間ドック市場(受診金額ベース)は、前年度比101.7%の9,370億円と推計した。
これまで、生産年齢人口の減少や特定健診の受診率上昇などの要因から、市場は横ばいまたは微増傾向で推移してきた。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う受診控え、健診業務の一時休止の影響で、2020年度は受診者数の減少もあり、2020年度の健診・人間ドック市場は同91.4%と縮小した。2021年度以降は、コロナ禍の影響が一部継続しているものの、概ねコロナ禍前の水準まで市場は回復している。
今後、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5類へ移行したものの、健診施設での感染症対策はしばらく実施されていくものとみられ、特に人口の多い都市部の健診施設では感染症対策が必須となり、受診時間を短時間にすることが他施設との差別化要素となることも考えられる。
コロナ禍を契機として、より健康・予防に対する人々の意識は高まっており、健診・人間ドック市場への追い風となると考える。市場は以前の様に横ばいまたは微増傾向で推移していく見込みで、2023年度の健診・人間ドック市場は前年度比100.7%の9,440億円になると予測する。
中長期的に市場をみると、郵送による在宅健診や、健診結果のオンライン報告など新たな取り組みもみられており、医療機関へ来院して検査や説明を受けるといった従来の健診から変革していく可能性があり、健診施設においては受診者の潜在的なニーズを汲み取り、実行していくことがより重要になるものとみる。
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健診事業を実施する公益財団法人(81社)における2019年度から2022年度の収益推移
調査要綱
2.調査対象: 全国の健康診断を実施している施設、関連ビジネス企業、保険者、地方自治体等
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、健診実施施設向け郵送アンケート調査、ならびに文献調査併用
<健診・人間ドック市場とは>
本調査における健診・人間ドック市場とは、自治体が実施する住民健診や労働安全衛生法に基づき企業・団体などが従業員向けに行う定期健診、母子保健法・学校保健法などに基づく健康診断、40歳以上74歳以下の公的医療保険加入者全員が受診する特定健康診査(特定健診)等の法定健診と、利用者が任意で受診する人間ドック等の任意健診を対象とする。
<市場に含まれる商品・サービス>
法定健診(定期健診、特定健康診査、特定保健指導など)、任意健診(人間ドック、専門ドックなど)
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