2024年のPAN系炭素繊維出荷量は前年比107.8%となる10万4,400tの見込
~スポーツ・レジャー用途や航空機向けのCFRP需要の回復により、炭素繊維も増加基調に回復~
1.市場概況
国内外(日本、韓国、台湾、米国、欧州)におけるPAN系炭素繊維市場規模(メーカー出荷量ベース)は、2023年が9万6,820tと推計し、2024年は前年比107.8%となる10万4,400tを見込む。
2023年のPAN系炭素繊維市場は、炭素繊維が強化材として使用されるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics、炭素繊維強化プラスチック)の需要が風力発電装置のブレード(翼)用途で落ち込み、またゴルフシャフトや釣り竿などコロナ禍の巣ごもり需要の拡大に対応した2022年までのオーバーサプライ(供給過剰)の反動から大きく減少した。2024年には在庫調整も終わり、CFRPの需要はスポーツ・レジャー用途の安定的な需要や航空機向け需要の回復により拡大しており、PAN系炭素繊維出荷量も増加基調に転じる見込みである。
2.注目トピック
アプリケーション別動向
PAN系炭素繊維市場においてアプリケーション別に見ると、風力発電翼用途の需要拡大にはまだしばらく時間がかかると思われるが、航空機やドローンなどのエアモビリティや、ゴルフシャフトや釣り竿などスポーツ・レジャー用途を筆頭に市場が緩やかに伸びる見通しである。
水素貯蔵用圧力容器や風力発電翼用途の需要は、水素社会の構築や再生可能エネルギーの発展に伴い、2028年~2030年以降に順次使用量拡大及び設備導入が進められる。
また、日本では今後さらに進む少子高齢化・人口減少の中で、スマートファクトリーや物流の効率化などの搬送フローの見直しに迫られる。そのような環境下において、さまざまな産業機器の軽量化・長寿命化・省人化が求められる結果、産業機器用途のCFRPの需要が伸びていく見込みである。
3.将来展望
PAN系炭素繊維市場は2023年から2030年までのCAGR(年平均成長率)が4.9%と堅調に成長し、2030年のPAN系炭素繊維市場規模(メーカー出荷量ベース)は13万5,585tになると予測する。主な用途としては、スポーツ・レジャー、航空機、風力発電に加え、産業機器、圧力容器、さらにはドローンや防衛関連が挙げられる。
1970年代に上市以来、炭素繊維市場は国内メーカー3社がけん引してきたという構造は変わっていない。その後、米国や欧州、韓国、台湾などの炭素繊維メーカーが市場へ参入してきたが、国内メーカーは技術開発力を武器に新たにより良い製品の開発を行うことで、トップランナーとして市場開拓を行ってきた。
しかし、近年、中国政府が炭素繊維をハイエンド新材料として位置付けており、中国メーカーの台頭が著しく、国内メーカーもかなり注視している状況にある。
国内メーカーはこれまで培ってきた高グレードの糸(炭素繊維)開発を続けることで中国メーカーがキャッチアップできない領域で市場開拓し続けることが求められ、さらにいうと、中国メーカーは当初は中国国内での風力発電がメインの需要用途となるため、国内メーカーは如何に欧米・アジアといったその他地域での市場拡大を図るかが重要となる。
短期的に見ると、防衛関連でのドローン用途や航空機向け需要の囲い込みが大きな市場成長のポイントになる。中長期的には、圧力容器や風力発電など総花的に幅広く見ることで、市場の緩やかな成長から堅調な成長へギアシフトを行うこともできると考える。
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炭素繊維複合材料(CFRP)市場
環境対応
調査要綱
2.調査対象: PAN系炭素繊維メーカー、炭素繊維複合材料メーカー
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、ならびに文献調査併用
<PAN系炭素繊維市場とは>
PAN系炭素繊維とは、アクリロニトリル(AN)を原料として生成される炭素繊維である。また、炭素繊維複合材料は、炭素繊維にマトリックス樹脂を含侵させ、各種成形法で形成した強化プラスチックであるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics、炭素繊維強化プラスチック)を指す。
本調査におけるPAN系炭素繊維市場は、国内外(日本、韓国、台湾、米国、欧州)の炭素繊維メーカーを対象としてメーカー出荷量を算出した。なお、市場規模には中国メーカーの出荷量は含まない。
※参考資料
「車載用CFRPの世界需要予測調査を実施(2021年)」(2021年7月16日発表)
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2758
<市場に含まれる商品・サービス>
PAN系炭素繊維(フィラメント、トウ、ミルド、チョップド他)、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)
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