2030年度の国内カーボンファーミング市場規模は92億2,100万円に拡大すると予測
~2025年度まで「水稲栽培による中干し期間の延長」プロジェクトが牽引し、その後は「バイオ炭の農地施用」が拡大する見通し~
1.市場概況
気象庁によると、日本の年平均気温は100年あたり1.35℃の割合で上昇しており、2024年夏(6~8月)は1946年の統計開始以降、夏として西日本と沖縄・奄美で1位、東日本で1位タイの高温となった。顕著な高温は日本だけでなく世界規模で起きており、国連環境計画(UNEP)の「排出ギャップ報告書2024」では、現行の政策のままなら世界の平均気温は今世紀中に最大3.1℃上昇する可能性があると示唆している。
農林水産業は気候変動の影響受けやすく、高温による品質低下などが既に発生しており、降雨量の増加等により、災害の激甚化の傾向にある地域では被害が深刻化している。
日本のGHG(温室効果ガス)排出量(2022年度)は二酸化炭素換算で11億3,500万t、農林水産省によるとこの内、農林水産分野は4,790万tで全排出量の4.2%を占めている。農業分野からの排出について、水田や家畜の消化管内発酵、家畜排せつ物管理等によるメタンの排出等が主な要因となっている。このようなことから、農業分野での温室効果ガス削減は急務である。大気中のCO2を土壌に取込み、土壌の質を向上させ温室効果ガスの排出削減を目指すカーボンファーミング(Carbon Farming:炭素貯留農業)やバイオ炭をはじめ、農地の土壌を健康に保ち、自然環境の回復につなげることを目指す環境再生型農業が国内外で注目されている。
2.注目トピック
J-クレジットを利用する上での課題を解決する「稲作コンソーシアム」が発足
2023年3月に「水稲栽培における中干し期間の延長」がJ-クレジット制度運営委員会において、J-クレジット制度における新たな方法論として承認された。今後、国内の水田クレジットの活性化によるメタンガス削減の期待がかかるが、現状課題も多く抱えている。
J-クレジットに登録する際には、「100t以上のCO2削減・吸収見込み」を満たす必要があるほか、登録・クレジット発行費用に数百万円が必要となり、さらに登録・申請まで手続きに手間がかかることから、生産者単独で行うのはハードルが高い。
こうした中、2023年4月に日本国内で水田由来のJ-クレジット創出を目的に、参加者を募りまとめて申請、登録する「稲作コンソーシアム」が発足した。稲作コンソーシアムが参加者(生産者)の水田をまとめてJ-クレジットに登録・申請するため、登録における「100t以上のCO2削減・吸収見込み」の条件を容易に満たすことが可能になる。同コンソーシアムには、農家・農業法人だけでなく事業会社も参画しており、2024年5月時点で約300社以上と連携している。大手農業メーカー、大手商社、地方銀行、大手コンサルティング会社、大手テック系企業、農業系ベンチャー、JA農業協同組合、営農支援ツール会社などが参画している。
3.将来展望
2024年度の国内カーボンファーミング市場規模(オフセット・プロバイダーから生産者・生産団体に支払われた金額ベース)を3億9,600万円と見込む。
2025年度までは「水稲栽培による中干し期間の延長」プロジェクトが牽引するが、2026年度以降は「バイオ炭の農地施用」が拡大する見通しである。温室効果ガスの排出削減を目指す環境再生型の農業への取組みは今後も継続され、2029年度には50億円を突破し、2030年度のカーボンファーミング市場規模は92億2,100万円に拡大すると予測する。
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調査要綱
2.調査対象: カーボンクレジット参入企業・団体、全国のJA、関連する大学・官公庁・協会
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、ならびに電話による調査
<カーボンファーミング市場とは>
カーボンファーミング(Carbon Farming:炭素貯留農業)とは、大気中の二酸化炭素を植物や土壌に取り込み、固定することで、温室効果ガスの排出を削減し、気候変動対策に貢献する、環境再生型の農業である。
本調査におけるカーボンファーミング市場は、J-クレジット制度における農業分野の方法論のうち、「バイオ炭の農地施用」、「水田クレジット(水稲栽培における中干し期間の延長)」、「酪農クレジット(家畜排せつ物管理方法の変更、牛・豚・ブロイラーへのアミノ酸バランス改善飼料の給餌、肉用牛へのバイパスアミノ酸の給餌)」の5つの方法論※を対象とし、J-クレジットを販売したオフセット・ブロバイダー(売買仲介事業者)から生産者・生産団体に支払われた金額ベースで算出した。
入札販売や仲介事業者を利用しない相対による取引の金額は含まない。
※5つの方法論について
バイオ炭は、木質バイオマス(木材、竹、稲わらなど)や動物性バイオマス(家畜糞尿など)といった生物由来の資源を、酸素の少ない環境で高温で加熱処理することで作られる炭化物である。農地にバイオ炭を施用することで、炭素を長期間土壌に固定することができ、炭素貯留量はJ-クレジットとして認証されている。
水田クレジットとは、水稲栽培における中干し(栽培期間中、一度水田の水を抜いて田面を乾かすこと)期間を従来より1週間延長すると、メタン生成菌の働きが抑えられ、メタン発生量を低減することができ、その削減分がJ-クレジットとして認証されている。
酪農クレジットでは、家畜排せつ物管理方法の変更や、アミノ酸飼料の給餌を実施することでメタンガスが削減され、その削減分はJ-クレジットとして認証されている。
<市場に含まれる商品・サービス>
①バイオ炭の農地施用、②水稲栽培における中干し期間の延長、③家畜排せつ物管理方法の変更、④牛・豚・ブロイラーへのアミノ酸バランス改善飼料の給餌、⑤肉用牛へのバイパスアミノ酸の給餌
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