国内有力企業による2024年度の農業ビジネス市場は、前年度比104.7%の1,164億2,800万円に拡大の見込
~異業種企業の参入は農業の再活性化にとどまらず、生産効率の向上にも寄与する見通し~
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1.市場概況
国内有力企業(異業種参入企業)における2023年度の農業ビジネス市場は、農業事業売上高ベースで前年度比104.9%の1,112億4,500万円と推計した。
政府が推進する成長戦略や6次産業化、食料の安定供給を目的とした取り組みを背景に、国内有力企業の農業ビジネス参入に対する世の中の関心が高まっている。特に、気候変動に伴う生産リスクへの対応や、中食・外食産業の活性化による農産物の業務需要の拡大が、ビジネス参入を後押しする要因となっている。また、離農による遊休農地の増加が課題となる中、異業種参入企業の農業参入は担い手不足の補完や農地の有効活用に寄与する役割が期待されている。
異業種参入企業は本業で培った固有の技術を収穫や仕分け作業といった農作業に転用することで、効率的な農産物生産体制の構築を実現している。こうした動きは、農業活性化を促進する要素として注目されており、新たなビジネスチャンスに繋がると考える。
2.注目トピック
リジェネラティブ農業の概要と国内における課題
リジェネラティブ農業(環境再生型農業)は、自然環境の再生を目的とする農法であり、化学肥料や化学農薬を使用しない有機農業を前提とする。主な手法には、圃場を耕さずに炭素を土中に貯留する不耕起栽培や、被覆作物(カバークロップ)の栽培がある。これにより、土壌の流出防止や土壌物理性の改善が図られ、土壌の健康を保つ効果が期待されている。
日本国内ではリジェネラティブ農業の実施例は少なく、リジェネラティブ・オーガニック認証が開始されたものの、普及は進んでいない。取材先の企業からは、環境配慮への必要性を感じている企業が多い一方で、コストの負担が課題であるとの声が多く聞かれた。また、国内ではリジェネラティブ農業と他の環境配慮型農業との認識の違いが不明瞭な例も多い。加えて、施設園芸や植物工場の水耕栽培はリジェネラティブ農業の対象外であるため、これらの生産者の関与が難しいことも課題の一つとなっている。
国内では有機農業の取組面積が増加傾向にあるものの、農林水産省によると2022年度末の面積は30.3千haと全耕地面積の1%にも満たない状況である。今後は、リジェネラティブ農業の認知度向上や、意欲的な企業の参入が進むことで、さらなる推進が期待される。
3.将来展望
国内有力企業(異業種参入企業)における2024年度の農業ビジネス市場は、前年度比104.7%の1,164億2,800万円を見込む。農地の有効活用や規制緩和の進展により、企業の参入意欲は依然として高い。また、気候の影響を受けにくい施設栽培型農業ビジネスは、実需者の安定的な調達ニーズに応える形で市場を牽引している。
異業種企業の参入は農業の再活性化にとどまらず、生産効率の向上にも寄与する。さらに、離農が進む地域においても、生産活動の担い手として企業が参画することで、遊休農地の活用が進み、地域の生産力向上が期待される。
国内有力企業(異業種参入企業)における2030年度の農業ビジネス市場は、1,520億4,400万円に拡大を予測する。今後は国内の生産基盤を維持しながら、参入企業による海外市場の開拓が進められる見通しである。その中で、従来の農業の枠を超えた新たな視点を持つ企業の農業ビジネス参入が、ますます重要な役割を果たす可能性がある。
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調査要綱
2.調査対象: 農業ビジネス(農産物の生産・販売)に参入している国内有力企業(異業種参入企業)、国内関連諸機関等
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、メールや電話によるアンケート調査、ならびに文献調査併用
<国内有力企業(異業種参入企業)の農業ビジネスとは>
本調査における農業ビジネスとは、従来は農業とは関連のない異業種から参入している国内有力企業における農地利用型農業ビジネス[農地所有適格法人(農業生産法人)/一般法人(農地リース)]、及び施設栽培型農業ビジネス(完全人工光型植物工場/太陽光・人工光併用型植物工場/太陽光利用型栽培施設)を対象とする。
なお、農家の法人成り(法人化)事業は含まない。
<農業ビジネス市場とは>
本調査における農業ビジネス市場規模は、農業事業(農産物の生産・販売)売上高ベースで算出した。
<市場に含まれる商品・サービス>
農地利用型農業ビジネス(農業生産法人タイプ/一般法人農地リースタイプ)、施設栽培型農業ビジネス(完全人工光型植物工場/太陽光・人工光併用型植物工場/太陽光利用型栽培施設)
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