今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2025 / 01 / 17
今週の“ひらめき”視点
トランプ政権2.0、まもなくスタート。民主主義は正気を保てるか

1月13日、米鉄鋼大手「クリーブランド・クリフス」のCEO、ローレンコ・ゴンカルベス氏は記者会見の席上、日本製鉄によるUSスチール社の買収に関連して「中国は悪だが、日本はもっと邪悪だ」などとダンピング問題を批判したうえで、「日本は1945年から何も学んでいない!」などと星条旗を握りしめながら声を荒げた。19世紀末に芽生えた「黄禍論(Yellow Peril)」そのままの、剥き出しのアジア人蔑視には辟易するが、ある意味 “今” のアメリカの一端を象徴しているとも言えよう。

さて、氏の暴言はとりあえず捨て置く。看過出来ないのはフェイスブック、インスタグラムの運営会社Metaの「ファクトチェックとコンテンツ規制に関する方針転換」である。1月7日、ザッカーバーグCEOは、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)の認証を受けた第三者プログラムの米国内での運用を停止すると発表、あわせて、政治、宗教、人種、性的指向等の文脈における不寛容の自認、排除の呼びかけ、侮蔑的な言葉への制約も緩和すると声明した。

また、「ユーザーの好みに最適化させるパーソナライズ技術を活用することで、これまで制限されてきた一部の政治的コンテンツにもストレスなくアクセス出来るようになる」とのことである。つまり、情報の真偽に関する議論は遠ざけられ、自分にとって心地よい言説だけを根拠に “歴史” や “現実” が勝手に再構成され、それが拡散、共有されるリスクが高まる、ということだ。結果、異論は排除され、分断は深まる。

多様性、公平性、包括性に関するプログラム(DEI)も後退する。ウォルマート、マクドナルド、フォード、アマゾン、、、そして、Metaだ。言うまでもなく、こちらも新政権の政策的主張に添う。トランプ氏がザッカーバーグ氏に対して「ずっと監視している」などと警告してきたことは有名だ。20日の就任式を前にブラフ(bluff)を連発するトランプ氏に早くも忖度、同調、忠誠を表明する者、一方、そこには与しないとの姿勢をとるカナダ、パナマ、グリーンランド、アップル、コストコ、、、世界はトランプ氏のペースに嵌りつつある。

2025 / 01 / 10
今週の“ひらめき”視点
2025年 内に閉じるな。変化の起点となれ

新年おめでとうございます。年頭にあたり謹んでご挨拶を申し上げます。

昨年は、世界で、否、とりわけ先進国で政変が相次いだ。英国では政権交代、ドイツ、フランスは内閣総辞職、日本でも自公政権が少数与党に転落した。米国ではトランプ氏が圧勝、韓国に至っては “弾劾” である。
2017年、トランプ氏の登場に際して、筆者は「排外的な自国第一主義は、行き過ぎたグローバリズムの反動であり、社会の歪みが一線を越えつつあることの現れ」と本稿に書いた。あれから8年、それはすっかり世界のいたるところに根づき、分断は更に深まりつつある。

SNS時代の民主主義のリスク

生きづらさを抱える者たちの批判はエリートに、社会への不信は既存メディアに向かう。彼らの言論空間はSNSだ。そこでは攻撃対象に関する真偽不明の不正義が一方的に生産・糾弾・共有され、やがて “実態の見えない多数派” が形成される。こうした空間の膨張に制度が追いついていない。民主主義の危機はここにある。
危機は強権政治の土壌となり得る。この状況を象徴するのが米国だ。国際協調主義からの離脱、自国優先の取引外交、多様性の否定、伝統的価値観への回帰、移民の排除、地球環境問題の軽視、、、など、既成の権威、常識、価値観を否定するトランプ流ポピュリズムが分断の細分化に拍車をかける。
科学ジャーナリスト、アンジェラ・サイニー氏は著書「家父長制の起源」(道本美穂訳、集英社)の中で「人民を支配する最も効果的な戦略は『分断・統治』である。小さな集団に分けることで人々は団結しにくくなり、忠誠心は支配者に向かう」と指摘する。なるほど、“実態の見えない多数派” の正体はまさにこれだ。日本も例外ではない。

トランプ政権下のビジネスチャンスとは

さて、トランプ氏の政策が各国の経済政策、企業の経営戦略に与える影響は小さくないだろう。しかし、予測不能の彼の言動に過度に身構える必要はない。極端で、かつ、振れ幅の大きいトランプ氏の産業政策の間隙はまさにビジネスチャンスでもある。
掘って掘って掘りまくれ、とのトランプ氏の掛け声を追い風に米国の石油・天然ガス業界は勢いを取り戻すだろう。一方、気候変動対策に対する投資は後退するはずだ。合理性のない関税の一律一斉引上げは対米輸出依存度の高い企業にとっては打撃だ。しかし、輸入コストの増加は米国内の物価を押し上げ、米製造業の競争力を低下させかねない。輸入に依存してきたサプライチェーンの国内シフトは、取引価格はもちろん、量的にも質的にも容易ではないだろう。
恐らく、一律一斉ではなく、国別品目別の交渉となるはずだ。だとすれば、問われるのは外交力と個々の品目における国際競争力である。“米国経済の失速リスク” をカードに4年後を見据えた戦略的な交渉をお願いしたい。

変化を突破するための意志と覚悟を

年末、ホンダと日産自動車が経営統合に向けての協議に入った。三菱自動車も合流するとされる。日産は再び大規模な生産縮小と人員削減に追い込まれた。もはやゴーン氏による「拡大路線の後遺症」ではない。トップが引き継がれて既に8期目だ。EVで勝てず、HVもなく、販売奨励金に頼らざるを得ない現状の責任は現経営陣にある。ホンダとはEV事業における協業が既に始まっているが、経営統合のレベルに一挙に進んだ背景には鴻海精密工業による日産株取得の動きがあったという。イニシアティブは「外部」からの圧力ということだ。
10月にはセブン&アイ・ホールディングスが非コンビニ事業を統合した中間持株会社の設立を発表、保有株式の売却手続きに入った。非コンビニ事業の切り離しは既定路線だった。とは言え、このタイミングでの実施は8月に表明されたカナダの同業大手による突然の買収提案に対する防衛策であろうことは想像に難くない。こちらも「外圧」に背中を押された格好だ。経営を取り巻く外部環境変化への対応は早かった。しかし、もしそれがなかったら、まさにこの時期に、果たして自らその一歩を踏み出せていただろうか。
そもそも日産には「鴻海との資本提携のもとでグローバルEV市場を戦う」という選択肢もあったはずだ。セブンイレブンにあってもカナダ社との連携は「海外市場における成長の実現」という文脈において合理性がある。
ホンダと日産の協議について政府は「日本企業同士の経営統合を歓迎する」と声明した。セブン&アイは創業家からのMBO提案を受け、非上場化を検討するという。もはやオールジャパンを歓迎するなどという時代ではないし、資本市場からの退場が企業を守ることではない。

国内に分断を抱える欧米と、分断の存在すら封じる中国との対立が深まる。ロシア、イスラエルの軍事侵攻も落としどころ見えない。自国利益のみが複雑に絡み合う世界にあって、安定はますます遠のく。今、私たちに求められるのは変化への耐性と適応力だ。しかし、それだけは時間稼ぎに過ぎない。変化を突破するエネルギーと自らが変化の主体となる覚悟こそが問われている。
異なるものを遠ざけ、現状に閉じるだけでは未来は拓かれない。私たちはリスクをとって、外へ出て、未来を拓く。

本年もご指導、ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。

2024 / 12 / 20
今週の“ひらめき”視点
ホンダと日産自動車、経営統合へ。巨大グループを率いるリーダーはいるか

ホンダと日産自動車が経営統合に向けて最終調整に入った。両社は、両社を傘下に置く持株会社を設立し、そこに三菱自動車も合流するという。3社による経営統合が実現すればトヨタグループ、独フォルクスワーゲングループに次ぐ、世界第3位の自動車メーカーグループとなる。

業績不振に喘ぐ日産は、11月、生産能力の2割縮小とグローバル社員9000人の削減を骨子とする構造改革策を発表した。再度の大規模リストラに追い込まれた要因をゴーン氏による「拡大路線の歪み」などと解説する向きもあるが、トップが引き継がれて既に8期目だ。EVで勝てず、HVもなく、販売奨励金に頼らざるを得ない状況にいつまでも手を打てなかった責任が “ゴーン以後の” 経営陣にあることは言うまでもない。

両社はこの3月、EV開発領域における協業に合意、8月には車載コンピューターの基本ソフトの共通化など業務提携の具体的な内容を発表、この時、三菱自動車の参画も表明されている。しかしながら、これが経営統合というレベルに一挙に進んだ背景には台湾の鴻海精密工業による日産株取得の動きがあったとされる。つまり、統合を主導したのは「外部」からの圧力であり、このタイミングでの発表は鴻海からの買収防衛とも解せよう。

さて、報道によると経営統合については “ほぼ合意” とのことである。であれば次の課題は経営体制だ。統合とは言え、実質的にはホンダによる救済的側面が強い。一方、大規模な開発投資を必要とするEV市場にあってホンダも今の規模では戦えない。当然、日産も対等を主張するであろう。しかし、そもそも「鴻海と組んでホンダを傘下に収めてやる!」ぐらいの覚悟と戦略をもったトップの不在が日産敗因の要諦である。よって、対等を前提とした経営スキームが成功するとは思えない。決定的とも言える企業文化のちがいを乗り越え、巨大自動車メーカーを率い、テスラやBYDと世界で戦うためにはそれこそゴーン氏以上の腕力と決断力が必要となる。

2024 / 12 / 13
今週の“ひらめき”視点
セブンイレブン、どこへ行く? 解体されゆく総合流通企業の行方

10月10日、セブン&アイ・ホールディングス(以下、HD)は、“グループ構造の最適化をはかる” としてイトーヨーカ堂、ヨークベニマル、ロフト、赤ちゃん本舗、外食事業など非コンビニ事業(SST事業グループ)を統合した中間持株会社「ヨーク・ホールディングス」を設立、保有株式の過半を売却する手続きに入った。11月28日に締め切られた1次入札には住友商事グループ、日本産業パートナーズ(JIP)、米投資ファンドグループなどが参加、2次入札を経て2025年度中に持分法適用会社化する。

SST事業グループの切り離しはHDの独立社外役員で構成される “戦略委員会” がこの4月に提言した方向性に添うものである。とは言え、このタイミングでの実施はカナダの同業大手「アリマンタシォン・クシュタール」(ACT社)からの買収提案に対する防衛策と解するのが自然だ。創業家も動く。11月13日、HDは創業家グループから “MBOによる買収提案” を受けていることを公表、国内メガバンクや米投資ファンド、ファミリーマートを傘下に持つ伊藤忠商事などがファイナンスパートナーとして関心を示しているという。

HDにとってACT社からの買収提案は衝撃だっただろう。しかし、HDは昨年も米投資ファンド「バリューアクト・キャピタル」(VAC社)からコングロマリット構造の再編と役員陣の交代を突き付けられている。これに対してHDは「セブン&アイ・グループは食を中心とした世界有数のリテールグループ」であり、「コンビニ事業への投資を強化するとともにオッシュマンズ、フランフラン、そごう・西武、バーニーズを売却するなど構造改革を進めてきた」と反論、役員選任に関する株主提案も「VAC社が推薦する候補者は食品・小売業界における経験が乏しい」と一蹴した。

ただ、 現在進行している事態はVAC社が主張した “コンビニ事業のスピンオフ” そのものであって、VAC社提案との決定的な違いは井阪社長を含む役員全員がそのまま残っている点にある。HDはSST事業グループを切り離すことで「SST事業グループは独立した企業体として自らの成長戦略を自ら定めることができる」とその意義を説明するが、要するにHDの現経営陣は彼らの成長とシナジーを主導することが出来なかったということだ。今、国内のコンビニ市場は飽和状態にある。成長を担うのは海外だ。であれば、経営者の要件はグローバルマネジメント能力の高さである。“戦略委員会”はこの視点から経営体制の在り方を検討し、“セブンイレブン” の未来を提言いただきたく思う。

2024 / 12 / 06
今週の“ひらめき”視点
マイナ保険証で露呈、“後戻りのない” 意思決定プロセス

12月2日、従来型健康保険証の新規発行が停止された。現行保険証は1年、マイナ保険証に代わって交付される「資格確認書」は最長5年、それぞれ猶予期間が与えられるものの、実質的に従来型の健康保険証は廃止され、「マイナ保険証を基本とする仕組みに移行」(政府広報)した。

2017年にスタートしたマイナンバーカードの交付率は2020年3月時点で15%と低迷、普及促進に向けて同年9月から「マイナポイント事業」を展開する。予算規模は2兆円だ。それでも交付率が50%程度と伸び悩む中、2022年10月、河野デジタル相は唐突に従来型保険証の廃止を宣言する。これが反発を呼ぶ。国民皆保険制度を人質にとった “取得の強制” に対する批判が噴出するとともに拙速な政策決定による現場の混乱が顕在化する。こうした状況を受け、与党内でも見直しが取り沙汰されることになる。

結局、既定路線どおりに始まったわけであるが、そもそも内閣府は2017年に公表した “マイナンバーカード導入後のロードマップ(案)” に、健康保険証について「2018年度から段階的運用開始」と書き込んでいる。もちろん、これは “案” であり、また、スケジュール的にも無理があると言えるが、何故、その時点で “任意から義務化へ” に関する法改正を提議しなかったのか。ここでボタンの掛け違いを修正しておけば多額の税金をポイントや広告宣伝費に投じる必要もなかったし、より丁寧な制度設計に十分な予算と時間を割けたはずだ。

この過程で看過できないもう一点は、「紙の保険証による不正利用は年間数百万件」との言説がSNSで拡散、これが世論誘導に援用された点である。しかし、根拠とされた研究論文は「不正の多くは単純な番号ちがいや資格停止後の利用」と説明しており、実際、この問題に対する国会審議では「加入者2500万人の市町村国民健康保険において、2017年から2022年の5年間に確認された “なりすまし受診” や偽造などの不正は50件」と厚労省大臣官房審議官が答弁している。つまり、強調すべき便益はそこではないということであり、導入の正統性を “より良い医療の提供” という被保険者の利益として説明し切れなかったところに、ボタンの掛け違いを修正することなく突き進んだマイナ保険証の不幸がある。

2024 / 11 / 29
今週の“ひらめき”視点
能登半島地震、長期化する被災から何を学び、どう備えるか

11月26日夜、能登地方で震度5弱を観測する地震があった。翌27日、能登半島地震の災害関連死の判定を行う13回目の専門審査会があった。審査会は石川県内から出されていた16人のうち12人を認定するよう答申、これにより能登半島地震による災害関連死は富山県、新潟県の6人を合わせ247人、直接死も含めると犠牲者は474人に達した。災害関連死の申請は未だ多くが審査待ちの状況にある。被災は収束していないということだ。

一方、遅いとの批判もあった復旧は進展した。石川県によると、1月の地震発生当時、道路は42路線87箇所が、9月の豪雨では最大25路線48箇所が通行止めとなったが、11月12日時点で、通行止めの箇所は17路線35箇所、孤立集落は実質的に解消された、という。水、電気、通信の復旧も進む。とは言え、いずれも「復旧困難地区、立入困難箇所を除き」との注釈がつく。復旧困難地区、立入困難箇所を含めると、水は輪島市で390戸、珠洲市で321戸、電気は輪島市、珠洲市、能登町の約340戸、通信は輪島市と珠洲市の37局が未だ復旧途上だ。

災害関連死は2016年の熊本地震の222人を上回る。能登半島特有の地理的特徴、被災者の多くが高齢者であったこと、観測史上最大の豪雨が被災地を襲ったことなどが、“被災” を長期化させている。初動対応の問題も指摘される。しかし、根本は災害に対する認識の甘さだ。能登だけではない。26日、内閣府の「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」は、地震発生時に実務対応を担う行政機関等を対象に行った “南海トラフ地震臨時情報” に対するアンケート結果を発表した。これによると、そもそも制度をきちんと “認知していなかった”(13.6%)も含めると “対応に戸惑った” 自治体は78%に達する。

同じ26日、「能登半島地震を踏まえた災害対応検討ワーキンググループ」が今後の災害対応に在り方に関する検討結果を公表した。提言には、地理的特徴や社会的特性を踏まえた応急体制・応援体制の強化、物資の調達・輸送体制の整備、避難者の生活環境の拡充、NPOなど民間組織との連携、複合災害への備え、などが盛り込まれた。これらは能登半島地震からの教訓だ。政府は来年の通常国会に向けて災害関連法制の改正を検討している。“備え” の強化はもちろんであるが、インフラ復旧という “区切り” に被災者が取り残されることのなきようきめ細かな対策を整備いただきたい。