今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2024 / 11 / 15
今週の“ひらめき”視点
COP29、波乱と懸念の中でスタート。資金拠出問題の合意なるか

11月11日から22日までの日程で、気候変動対策を協議する国際会議COP29がアゼルバイジャンの首都バクーで始まった。冒頭、議長国のババエフ環境・天然資源相は「気候変動は既にはじまっている。COP29を新たな道を切り開く瞬間にする」と合意形成への意欲を表明、国連のグテーレス事務総長も「気候変動対策への資金援助は慈善事業ではなく、投資だ。これが最後のカウントダウンであり、選択肢はない」と各国首脳に呼びかけた。

会議に先立つ7日、EUの気象情報機関が発表した観測データによると2024年1月から10月までの世界平均気温は昨年を0.16℃上回る15.36℃となった。これは過去30年間の平均気温より0.71℃高い数字であり2024年の年間平均気温は「パリ協定」で採択された目標値 “産業革命以前に対して+1.5℃以内” をはじめて超える見通しであるという。日本をはじめ世界中が記録的な猛暑や豪雨に見舞われており、危機は現実の “災害” として顕在化している。

さて、会議の最大のテーマはいかに多くの資金を低所得国のために確保できるかである。それだけに気候変動そのものを「フェイク」と批判し、パリ協定からの離脱を公言してきたトランプ氏率いる米国への懸念が高まる。各国は「米国は温室ガスの排出大国であり、その責任から逃げるべきでない」と牽制、米エクソンモービルのウッズCEOも「離脱ではなく、参加することで主張すべき」と米国の離脱に反対の立場だ。

先進国と途上国の利益が相反するCOPはそもそも合意へのハードルが高い。加えて議長国のアリエフ大統領が「欧米はダブルスタンダード、石油は神の恵み、現実的であれ」などと発言、会議は波乱含みのスタートとなった。こうした中、英国のスターマー首相がパリ協定の目標に整合する温室効果ガスの削減目標を発表、日、米、中、独、欧州委など主要国首脳が軒並み欠席する中、英国のプレゼンスが高まる。国会や外交日程もあろう。とは言え、日本のトップの不参加は残念だ。気候変動への取り組みを「日本がリードしたい」と語ってきた石破氏はまた一つ自身の “らしさ” をアピールする機会を逸した。

2024 / 11 / 08
今週の“ひらめき”視点
米大統領選、トランプ氏勝利。“予測不能”をチャンスに置き換えろ

2024年米大統領選挙が決着、トランプ氏の圧勝となった。敗者ハリス氏にとってはバイデン政権の中枢を支えてきたキャリアそのものが政治的な制約となった。また、女性、黒人、アジア系という彼女のバックグランドが、彼女の意図しないところで “取り残されているのはマジョリティであり、白人労働者だ” とのトランプ氏の主張を強化したとも言える。

いずれにせよ明らかになったのは階層、世代、性、人種、宗教、教育、地域における格差や利害が絡み合ったアメリカ社会の鬱屈した現状であり、Make America Great Againというエモーショナルで、ストレートなトランプ氏のメッセージがあたかも普遍的なものとして響いたのかもしれない。虚実が問われることなく一方の熱狂に誘引される選挙に民主主義の危さを感じざるを得ない。

トランプ氏の再登場に世界が身構える。“戦争を直ちに終わらせる” との公約は強者による妥協の押し付けが懸念される。“ドリル、ベイビー、ドリル” と石油・ガスの採掘を鼓舞してきた氏にとってパリ協定の再離脱に躊躇はないだろう。一方、経済、通商政策については未知数だ。第1次トランプ政権を振り返るとNAFTAの見直しやTPPからの離脱は実現させたものの、45%とした対中輸入関税は半分程度にとどまった。 “移民300万人の強制送還” も実施されていない。高関税や労働力不足がインフレ要因となることは自明であり、選挙期間中の過激な公約がどのように、どのタイミングで施策化されるのか、現時点ではまさに “予測不能” である。

今後4年間、米国の外交は個別取引、個別交渉が基本になるだろう。そこで問われるのは相対での損得だ。世界の分断は助長され、地政学リスクも高まりかねない。とは言え、米国が自国第一主義に閉じたまま、文字通り製造業への回帰と脱炭素へ向かうのであれば、日本にとっては国際協調、国際貿易を主導する絶好の機会となるはずだ。ただ、それでもしっかりと “その先” の覇権を見据えて行動するのが米国の強かさでもある。いずれにせよ、気の抜けない4年間となることだけは間違いない。

2024 / 11 / 01
今週の“ひらめき”視点
船井電機、破産手続きへ。非上場会社のM&A市場の健全化を急げ

10月24日、老舗家電メーカー「船井電機」が東京地裁から破算手続きの開始決定を受けた。1990年代から2000年代にかけてOEMメーカーとして確固たるポジションを築いた同社であるが、液晶テレビ市場における中国メーカーの台頭、AV機器の需要構造変化の中、2004年度に3500億円を越えていた売上高は2017年度には1300億円台へ急落する。苦境を打開すべく、同年からヤマダデンキ向けに液晶テレビの独占供給を開始するが業績は回復せず2021年度の売上は696億円まで落ち込んだ。

ヤマダデンキとの提携に再建を期したその2017年、創業者が逝去、株式を相続した遺族は秀和システムグループの上田智一氏に経営を託す。2021年、同グループはTOBにより経営権を取得、同年8月、船井電機を非上場化、2023年3月に資本関係を再編、船井電機は「船井電機・ホールディングス」の傘下企業として再出発することとなる。

新体制へ移行するとホールディングスは、船井電機の資産を担保に脱毛サロンチェーン「ミュゼプラチナム」を買収する。しかし、わずか1年たらずで同社は金融関連事業者に譲渡される。問題はここだ。この過程でミュゼの未払広告代金22億円に船井電機が連帯保証を付けていたことが発覚、役員の入れ替わりも続き、9月には上田氏が退任、そして、破算に至る。ミュゼについては銀行借入に対しても簿外で保証がつけられていることも判明、その他関連会社貸付を合わせると300億円を越える現預金が船井電機から流出していたという。

ミュゼに関する経緯の真意は不明である。とは言え、結果的に船井電機の信用と資産が食い物にされたことに異論はあるまい。そして、今、後継者難を背景に活況を呈する中小企業のM&A市場でも被買収企業の資産奪取を狙ったM&Aが表面化しつつある。これに対し中小企業庁は “中小M&Aガイドライン” やM&A支援機関の登録制度を創設、M&A仲介の業界団体も不適切なM&Aの排除に乗り出す。かつて、ITバブルの崩壊前後、仕手筋をはじめとするグレーな資金が資本市場に流入、脆弱な新興上場会社をターゲットとしたM&Aが社会問題化した。中小企業のM&Aが地方の雇用維持と産業界の活性化に資することは言うまでない。悪質な買手の流入を阻止すべく官民は早急に策を講じていただきたい。

2024 / 10 / 25
今週の“ひらめき”視点
IEA、東南アジアの化石燃料依存を懸念。日本は地熱資源開発に遅れをとるな

10月21日、国際エネルギー機関(IEA)はシンガポールに初の海外事務所を開設した。IEAによると、東南アジアの電力需要は年率4%増、2050年までに60%以上増加する。一方、東南アジア各国が気候変動目標を達成するためには2035年までにクリーンエネルギーへの投資を現在の5倍、1900億ドルに引き上げる必要があるという。IEAはシンガポールを拠点に東南アジア各国との連携を強化、エネルギー安全保障とエネルギー転換の加速を支援する。

実際、ダイナミックに成長を続ける東南アジアは、世界のエネルギー需要成長率の25%を占めると予想され、今世紀半ばまでに欧州(EU)のエネルギー需要を上回る。一方、気候変動対策は十分とは言えず、CO2の排出量も35%増となる見通しだ。クリーンエネルギーへの転換、送配電網における地域間連携のインフラづくりが課題だ。

クリーンエネルギーについては、地熱資源が豊富で、かつ多くの島嶼部を有する地域特性を鑑みると地熱発電によるマイクログリッドの整備も有効だ。現在、世界の地熱発電の設備容量は1位が米国、2位がインドネシア、3位がフィリピンである。とりわけ、インドネシアは地熱法を整備するなど地熱資源の活用促進をはかる。それでも総発電量の数%といったレベルであり開発余力は大きい。ビル・ゲイツ氏やGoogle社が支援するシェール掘削技術を応用した地熱発電スタートアップFervo Energy社(米国)も東南アジアへの事業展開を将来構想に入れる。

さて、地熱発電を資源量でみると日本は米国、インドネシアに次ぐ世界3位の資源国である。一方、設備容量となると10位に後退、純国産エネルギーのポテンシャルを活かしきれていない。開発期間の長さ、費用の大きさ、資源の8割が国立・国定公園内に存在することが制約要因である。とは言え、供給安定性が高く、超臨界地熱発電、高温岩体地熱発電といった次世代技術の開発余地が大きい地熱発電への投資は急ぐべきだ。上記Fervo Energy社には三菱重工グループも出資、タービンを供給するなど関連企業のビジネスチャンスも大きい。自然環境の維持、地域社会との共生を原則としつつも、地熱発電に関する産官学の取り組みを加速していただきたい。

2024 / 10 / 18
今週の“ひらめき”視点
中国経済、内需失速。構造改革を急ぎ不況の輸出に歯止めを

10月14日、中国税関総署が1-9月期の貿易総額が前年同期比+3.4%、うち輸出が前年比+4.3%、輸入が+2.2%となった、と発表した。今年上半期(1-6月期)の貿易総額の伸び率が+6.1%、輸出+6.9%、輸入+5.2%であったことを鑑みると、夏場以降の低迷が顕著である。とりわけ、輸入の落ち込みが大きく、9月単月では+0.3%へ鈍化している。

内需の低迷、デフレ圧力の強まりは国家統計局発表の物価指数でも確認できる。9月の消費者物価指数(CPI)は前年比+0.4%、食品が+3.3%となる一方、非食品価格は▲0.2%とマイナスに転じている。生産者物価指数(PPI)も減速、9月は▲2.8%とこの半年で最大の下落率となった。

こうした状況の中、当局も従来型の産業振興投資から個人消費の喚起に本腰を入れる。年内に発行が予定されている2兆元規模の特別国債のうち1兆元を家計に振り向ける。住宅購入時の頭金規制の緩和、ローン金利の引き下げなど住宅購入支援のもう一段の強化や子育て関連消費への補助なども対象とする。とは言え、単発的な景気刺激策では効果は限定的だ。地方と都市の格差を是正し、安定した内需の拡大をはかるためには雇用、税制、社会保障、地方政府の債務問題など、産業政策や社会基盤そのものの構造改革が急務である。

この7月、若者の失業率は17%に達した。そんな若者世代が支持するのは「消費降級」と呼ばれる消費スタイルだ。高級ブランドや新車の販売が失速する中、彼らが支持するのは中古品市場である。国慶節の大型連休、今年はコロナ禍前を上回る延べ20億3千万人が移動した。期間中の出入国者も1300万人を越えた。とは言え、国内旅行に限ってみると自家用車を使った近隣への節約型旅行が主流であり、国内線の航空運賃は軒並み下落した。中国の成長が1%鈍化すると近隣諸国のGDPも0.21%下がるとされる(世界銀行)。アジアへの不況の連鎖を防ぐとともに、政治的安定という意味においても実効性の高い構造改革に期待したい。

2024 / 10 / 11
今週の“ひらめき”視点
8月、実質賃金マイナス、個人消費失速。デフレ脱却に向けての覚悟を

10月8日、厚生労働省は毎月勤労統計調査の8月速報を発表した。就業者の現金給与総額は名目ベースで296,588円(前年同月比+3.0%)、うち一般労働者は377,861円(同+2.7%)、パートタイム労働者が110,033円(同+3.9%)となった。前者の所定内賃金、後者の時間当り給与もそれぞれ2.9%、4.8%と前年同月を上回った。しかしながら、物価変動の影響を除いた実質賃金は同▲0.6%と3カ月ぶりにマイナスに転じた。

実質賃金のマイナスは8月の消費者物価が前年同月比+3.0%と賃金の伸びを上回ったことによる。とは言え、「27カ月ぶりのプラスとなった6月そして7月も夏季賞与による押上効果によるものであって、そもそもの “基調” は変わっていない」との見方も出来る。ただ、マイナス幅は縮小しており、それだけに “夏” への期待もあった。

そこに水を差したのが、南海トラフ地震臨時情報の発出とお盆休みのタイミングで警戒が呼びかけられた台風である。結果、8月の消費支出は実質ベースで1.9%のマイナスとなった。とりわけ、自動車販売、国内パック旅行の不振による「交通・通信」と「教養娯楽」が低迷、前者が▲17.1%、後者が▲6.9%と個人消費を押し下げた。一方、極端な伸びを示したのが記録的な猛暑に伴うエアコン需要(+22.7%)とコメ(+34.5%)、カップ麺(+18.1%)、トイレットペーパー(+17.2)といった災害備蓄関連の消費である(総務省「家計調査」より)。

8月の統計データは、日本中が巨大地震に身構え、猛暑に喘ぎ、物価高に苦しんだことを伺わせる。今、中東情勢の緊迫化に伴い原油市場の先行きが懸念される。米国は雇用情勢が好転、大幅利下げの観測が遠のく。為替の修正の遅れは輸入物価の高止りを意味する。アベノミクス、官製春闘、新しい資本主義を経て、未だ “デフレ脱却宣言” には至っていない。こうした中、牛丼大手3社が「並盛300円台」を謳った期間限定の値下げキャンペーンを一斉にスタートさせた。再び “安い日本” に閉じてゆくか、“金利のある世界” での成長に賭けるか、私たちは大きな岐路にある。