今週の"ひらめき"視点

そごう・西武売却へ。「なくてもいい」存在からの脱却は可能か

2月1日、セブン&アイ・ホールディングスはそごう・西武売却の報道について「あらゆる可能性を排除せず検討している。しかし、決定事項でない」旨、リリースした。とは言え、コンビニ事業への集中を求める所謂 “モノ言う株主” からの圧力が強まる中、再建の見通しが立たない百貨店事業の切り離しは必然の流れである。投資ファンドを軸とした譲渡手続の詰めは恐らく最終段階にあるものと推察される。

2021年、コロナ禍2年目の全国百貨店の売上高は4兆円強、長期間の営業自粛を強いられた前年を上回ったものの、コロナ前と比較すると依然2割減の水準にとどまる。そもそもかつて12兆円あった市場が1/3の規模へと縮小した要因は、テクノロジーの進化を背景とした消費行動の急激な変化と主要顧客であった中間層の喪失である。つまり、変化は構造的であって、コロナ禍はそのスピードを加速させたに過ぎない。

2006年、そごう・西武の買収を仕掛けたのは鈴木敏文氏(当時会長)、狙いは「社会階層によって小売業態が細分化されている米国市場と異なり、日本は同じ一人の消費者がシーンに応じてこだわり消費と日常消費を使い分ける。ゆえに顧客情報を軸とした業態間シナジーは大きく、リアルとネットを統合した新しいモデルが開発できる」だった。しかし、リアル、ネットいずれにおいてもスーパー、コンビニ、百貨店の戦略的シナジーは期待したレベルには届かず、一方でPB「セブンプレミアム」の百貨店への展開などセブン流の効率化が百貨店としての魅力を削いでいった。

それでも地方店の閉鎖、SC型ストアへの業態転換、人員削減など、市場環境の変化になんとか抗ってきた。Z世代の三和沙友里氏プロデュースによる「服を売らないアパレル」のポップアップショップの開催、思想と社会性のある事業づくりを掲げる辻愛沙子氏をクリエイティブディレクターに起用したメディア型OMOストアの開発など、“輝き” の片鱗もかろうじて顕在だ。
そごう・西武の今年のコーポレートメッセージは「わたしは、私」、「なくてもいいと言われるものと、私の心は生きてゆく」だ。モノ言う株主、親会社から “なくてもいい” を突きつけられた彼らであるが消費者、そして、新たな株主から “なくては困る” 存在であり続けることが出来るか、まさに正念場だ。
※OMOストア:Online to Offlineストアの略、店頭とECをシームレスに連携させたコンセプト・顧客・商品・情報が統一されたストア形態


今週の“ひらめき”視点 1.30 – 2.3
代表取締役社長 水越 孝