今週の"ひらめき"視点

DIC川村記念美術館、休館へ。“色彩”との物語を軸にリブランディングを

※ DIC川村記念美術館(筆者撮影)

9月30日、DICは “DIC川村記念美術館” の休館開始時期を2025年1月下旬から3月下旬に延期すると発表した。DICは2023年12月期決算における最終赤字を受け、外部による経営諮問機関「価値共創委員会」を設置、美術館運営の在り方について議論を重ねた。結果、「資本効率という面において有効活用されていない」として、8月27日、年明け1月下旬から休館すると発表した。しかし、これ以降、来館者が急増したため、今回の延期となった。

美術館がターゲットとなった背景には昨年12月28日時点で6.9%の大株主となった香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」からのプレッシャーがあっただろうことは想像に難くない。取締役会は、社会的価値と経済価値の両面から美術館運営の位置づけを再考するとし、「運営中止の選択肢も排除しない」としつつ、「ダウンサイジング&リロケーション」を具体的なオプションとして検討、年内に今後の運営方針を決定する(8月27日付、同社リリースより)。

所蔵754点、うちDIC所有は384点、簿価112億円、市場価値10億ドル超、と言われるコレクションは2代にわたる創業家社長によるもの。インキを祖業とし、色彩に魅了された創業家のアイデンティティそのものと言える。美術館に入って最初の展示室に飾られたレンブラントをはじめ、ルノワール、モネ、ブラックなど近代を代表する作家の作品は一級品揃いであり、ステラ、トゥオンブリー、ポロックといった現代美術の充実ぶりは傑出している。とりわけロスコの作品7点が常設展示されている “ロスコ・ルーム” は圧巻だ。因みに筆者のお気に入りはポロックの “緑、黒、黄褐色のコンポジション”(1951)である。

日本屈指の企業ミュージアムである同館の閉鎖、収蔵品の散逸は、美術界はもちろん、DICのコーポレートブランディングにとっても損失となろう。「進化した “Color&Comfort” の価値提供を通じて、株主利益を包摂する社会的利益を追求する」(DIC Vision2030より)との言葉どおり、経営の立て直しを急ぐとともに文化資産を保有するものとしての社会的責任の履行を願う。最後に、19世紀フランスの詩人・劇作家ゴーティエ(Gautier)の一節を。「美しいものは生活に必須ではない。しかし、花のない世界を望む人がいるだろうか?(モーパン嬢、1835)、「これが何の役に立つのか、ですって?美しくあるために役立つのです。それで十分ではないでしょうか」(アルベルトゥス、1831)。


今週の“ひらめき”視点 9.29 – 10.3
代表取締役社長 水越 孝