今週の"ひらめき"視点
岐路に立つ「ふるさと納税」、地方創生と公正さの両立を
ふるさと納税をめぐって自治体からの異論が噴出する。まず、ふるさと納税によって歳入の減少が続く自治体から悲鳴があがる。世田谷区は新年度の予算策定に際し、「ふるさと納税による2019年度の減収見通しは53億円にのぼる」と発表、「行政サービスの低下は避けられない」として制度の改善を訴える。
2018年度、ふるさと納税による税の控除、すなわち税の流出は市町村民税と道府県民税を合わせて2,447億円を越えた。とりわけ、2016年度に寄付金控除の上限引き上げと“ワンストップ特例”が実施されて以降、流出は都市部を中心に急拡大、世田谷区では2016年度が保育園5園の新設費用に相当する16億5千万円、2017年度は31億円、2018年度には41億円へと流出額が膨らんだ。
一方、泉佐野市は国の方針に真っ向から挑む。国は返礼品の高額化と過度な競争を抑制すべく、「返礼品は地場産品に限定、返礼割合を3割以内、この条件を満たさない自治体を制度の対象から外す」ことを決定、4月から手続きを開始する。これに対して泉佐野市は「地方分権の理念に反する」と反発、そして、「もはや法制化が避けられない情勢であり、そうであれば、、、」として、“2月、3月限定。100億円還元閉店キャンペーン”と銘打ってアマゾンギフト券の配布を開始した。泉佐野市は「関空」という国策に左右され続けてきた自治体であり、“りんくうタウン”など都市基盤への過剰投資の結果、2004年には「財政非常事態」を宣言するまで追い込まれた。厳しい構造改革を経て、2016年になってようやく「財政健全化団体」から脱却、“反骨”の基底にはこうした経緯があると推察する。とは言え、当然ながら国も黙っていない。「4月以前の取り組みも指定自治体の選考に際して考慮する」と泉佐野市を牽制する。
そもそもふるさと納税については多くの問題点が指摘されてきた。全国の自治体の予算総額は返礼費用分だけ実質的に目減りする。そして、流出超過があった自治体にはその75%が国庫から補填される一方、世田谷区など地方交付税の不交付自治体は補填の対象とならないといった不公正もある。また、流出額が多い自治体ほど納税義務者一人当たり課税所得の水準が高い。純粋な“寄付”であれば当然と言えるが、任意に選択できる納税方式に逆進的な要素が内在されているのであれば公平性を欠く。もちろん、メリットもある。地元物産の広報宣伝には効果があるだろう。故郷や母校など縁の深い自治体を応援する喜びもある。被災地の復興や地方の特定事業への支援など税の使い道に関与できることの意義も大きい。しかし、“お得感”によって選択される返礼品が地方の生産者や企業の市場競争力を高めるとは思えないし、全国レベルで通用する名産品を持たない地域にとっての恩恵は小さい。地方間競争は奨励されて然るべきだ。しかし、返礼品による税の争奪競争の歪みが顕在化しつつある中、ふるさと納税は根本から見直すべき時期にあると言える。
今週の”ひらめき”視点 2.10 – 2.14
代表取締役社長 水越 孝