今週の"ひらめき"視点

東京2020大会、TOKYOは未来と世界に対して誇れる選択を!

新型コロナウイルス感染拡大を受け延期が決定した東京2020大会の新たな日程が発表された。アスリートや大会関係者はもちろん、楽しみにしていた多くの人が安堵したことと思う。しかし、この状況下にあって “延期” は正しい選択であったのか。

社会のムードを盛り上げるという意味でも、また、経済貢献という視点からみても大会開催の意義は大きい。東京都オリンピック・パラリンピック準備局の試算によると東京2020大会の需要創出額は1兆9,790億円、生産誘発額は5兆2,162億円に達する。新国立競技場建設など施設関連の整備費は既に支出済みとしても、大会運営費、参加者や来場者の消費支出、TVの買い替え需要などこれから新たに発生する消費額は大きい。
当然、“中止” になればこうした需要は失われる。宿泊、外食、旅行業界をはじめ影響は甚大だ。しかし、だからといって消費のすべてが失われるわけではないし、そもそも社会全体が恩恵を受けるわけではない。

帝国データバンクが実施したアンケート調査では、「東京2020大会が自社の業績にプラスの影響をもたらす」と回答した企業は全体の15%に止まる。56.1%の企業が「業績に影響はない」とし、「悪化する」と回答した企業も10.5%あった(「東京五輪に関する企業の意識調査」、2019年10月、有効票1万113社)。例えば、大会期間中にメディアセンターとなる東京ビッグサイトでは展示会200本以上が開催出来ない。出展社8.2万社、2.2兆円の売上が犠牲となる(日本展示会協会)。一方、大きな投資を実施したであろうインバウンド業界も大会期間中の需要増だけでの回収は見込んでいないはずだ。

経済効果とは言うまでもなく売上である。すなわち、誰かの支出、ということである。では誰が開催費用を負担するのか。東京2020大会ではスポンサー料やチケット販売などを収入源とする組織委員会が45%、東京都が44%、国が11%を負担する。つまり、全体の55%は税金だ。
“1年間の延期” には更に数千億円の追加費用が必要となる。今、首都の封鎖さえ取り沙汰される状況にあって、大会延命のために莫大な公的資金を投入すべきか。そもそも本当に開催できるかどうかも不透明であり、いつの時点で、世界の感染状況がどうなっていたら実施できるのか、その条件さえ示されていない。
リオデジャネイロ五輪では205の国・地域が参加した。現時点で新型コロナウイルスの感染は177の国・地域に拡大している。例え、日本や先進国の感染が終息したとしてもそれだけでは開催条件が整ったとは言えない。

医療機関への支援、治療薬の開発は緊急課題だ。生活者や事業者への経済支援も猶予出来ない。物資の確保、社会インフラの維持にもお金が必要だ。発表の場を失った演劇人、音楽家など文化の担い手たちも困窮している。まずは感染の終息と社会活動全体の正常化が優先されるべきであり、予算も人もここに集中投下すべきである。
スポンサー企業をはじめグローバル大企業にも期待したい。広告宣伝費、利益剰余金の一定額を拠出、大型の基金を組成し、治療薬の研究開発支援、中小企業への信用供与、新興国支援などに貢献いただきたい。最大のCSR効果が得られるはずだ。

今、最大の不安要因は将来が見通せないことに尽きる。未来に向けて進むためにも不確定要件を一つでも減らすことが肝要である。
大会関係者のお気持ちは察して余りある。しかし、判断は先延ばしにすればするほど損失が拡大する。損失とは経済的な意味だけではない。“オリンピック・パラリンピック” そのものの社会的価値を棄損させないためにも名誉ある撤退を選択すべきである。


今週の“ひらめき”視点 3.29 – 4.2
代表取締役社長 水越 孝