今週の"ひらめき"視点

ファーウェイ問題、際限なき報復と牽制。米中対立に落とし所はあるか

11日、カナダで拘束されていた華為技術(ファーウェイ)の孟副会長が保釈された。逮捕は米国からの要請にもとづくもので、容疑は対イラン制裁違反とのことである。4月、同様の嫌疑で中興通訊(ZTE)が米国から締め出された。しかし、インパクトの大きさはこれと比較にならない。ファーウェイの売上高は10兆円、通信基地局で世界シェア1位、スマートフォンの出荷台数はアップルを上回る世界2位、米企業との取引も大きい。クアルコムのファーウェイ向け売上高は18億ドル、インテルは7億ドルに達する。日本企業も同様だ。セラミックコンデンサー、CMOSイメージセンサーなど日本メーカーの納入額は5,000億円規模に達する。

7日、日本政府は「情報の窃取、破壊など悪意ある機能をもつ機器を調達しない」との方針を発表した。特定企業の名指しを避けつつも米国に追従したことは明白である。国内キャリア大手3社も政府に同調する。ファーウェイ排除の動きは官から民へ拡大する。
一方、中国ではアップル製品の不買運動がはじまった。世界市場の3割を占める中国におけるボイコットの拡大と長期化は、自ずとアップルの世界戦略に影響を与えるはずだ。それはすなわち同社の成長に依存する米、日、韓、台湾の電子部材、電子機器メーカー、そして、その取引先である中小企業を揺るがす。

ある米軍幹部は米中の現状を「戦争に至る前の段階」という意味で“Gray War”という言葉で表現した。ファーウェイを巡る対立はもはや“貿易戦争”の枠内のものではない。次世代先端技術における国家の覇権を賭けた攻防であり、したがって、双方とも安易な譲歩はないだろう。世界は再び2つの陣営に色分けされるのであろうか。しかし、地球そのものの容量が限界を迎えつつある今日、分断はそれぞれの側にとって“制約”にしかならず、まして民にとって利はない。
11日、トランプ氏は「安全保障で米国にプラスに働き、通商協議に利するのであれば介入する」と述べた。政治による司法への介入は法治国家の根本を歪める。しかし、Gray Warが一歩進むよりマシだ。ここは異形の大統領の本領に期待したい。


今週の”ひらめき”視点 12.9 – 12.13
代表取締役社長 水越 孝