今週の"ひらめき"視点

日銀のETF残高、膨張。株式市場の正常化とリスク回避に向けて

15日、OECDは「対日経済審査報告書」で日銀のETF(指数連動型上場投資信託)の買入について「市場規律を損ないつつある」との懸念を表明した。これに対して、日銀の黒田総裁は「2%の物価安定目標を達成するための施策の一環」であるとしたうえで、「目標達成に向けて大きな役割を果たしている」と語った。
翌16日、衆議院財務金融委員会にて同様の懸念について問われた黒田氏は「さまざまな意見があることは承知しているが、“株価安定”の実現に向けての必要な措置である」と回答、直後、「株価ではなく物価」と言い直す一幕があった。

日銀が「物価安定目標」を“消費者物価の前年比+2%”と定めたのは2013年1月である。しかし、2019年4月にあって目標の達成は依然として遠い。もはや異次元緩和への期待が色褪せつつある中で問われた“副作用”に対する反論として、目に見えるポジティブな成果としての“株価”が黒田氏の頭を過ぎったのだろうか。もちろん、発言は直ちに修正されたが、本来の目標達成が見えて来ない現状にあって、市場の歪みと副作用に対する懸念が黒田氏の中でも大きくなりつつあるのかもしれない。

2018年、日銀によるETFの買入れは年間6兆5040億円に達した。同年12月における保有残高は23兆5497億円、これは東証一部上場会社の時価総額の約4%を占める。年明け以降も残高は増え続け、この3月末には28兆円を越えたとみられる。日銀のETF買入は黒田氏が繰り返し説明したとおり物価の安定が目的である。市場介入による株価操作が目的ではないし、ましてや純投資ではない。したがって、目標が達成されるまで売却はできない。ゆえに企業価値が適切に反映されるべき株価に歪みが生じる。

問題はこれだけでない。万が一、相場が急落し、時価が取得価格を割り込んだ場合、日銀は大きな含み損を抱えることになる。つまり、円の信任そのものが毀損する可能性がある。このリスクを回避するには残高を減らす必要がある。しかし、売却は相場の下落を誘発する恐れがある。まさに退くに退けない。
とは言え、日銀は実効性の高い出口戦略を準備し、一定の条件下で政策を転じる意志を表明すべき時期に来ているのではないか。それは金融政策における“手持ちのカード”を増やすという意味においても有効であるはずだ。


今週の”ひらめき”視点 4.14 – 4.18
代表取締役社長 水越 孝