今週の"ひらめき"視点

LIXIL、対立を乗り越え、新たなガバナンス・モデルの確立を

トステム創業家の潮田洋一郎氏と瀬戸欣哉前CEOとの経営権を巡る対立が、25日、定時株主総会で決着した。
混乱の発端は昨年10月31日、LIXILは突然、瀬戸氏のCEO退任と潮田氏の会長兼CEO就任を発表する。背景には潮田氏と瀬戸氏の海外戦略に対する路線対立があったとされるが、不透明な解任手続きに社内外から批判が起こる。会社側は西村あさひ法律事務所に内部検証を委嘱、2月25日付けで「重要事項の決定に疑義が生じたことは反省すべきであるが、取締役会決議に違法性はない」と結論づけた。しかし、海外の機関投資家を中心に潮田体制下のガバナンスへの不信は収まらず、4月5日、こうした流れに押される形で瀬戸氏は独自の役員候補と潮田氏の退任を株主総会に提案すると発表する。これを受けて潮田氏は総会前に自ら取締役を退くと表明、その一方で自身の影響下にある役員候補を会社提案としてまとめ、瀬戸氏に対抗する。

結果は瀬戸氏がCEOに復帰、14人の取締役のうち8人が株主提案から選任された。しかし、うち2名は会社提案と重複しており、また、瀬戸氏自身の賛成率も53.7%にとどまるなど取締役会における瀬戸氏の立場は磐石とは言い難い。
当面の課題は2011年に潮田氏が買収し、2017年に瀬戸氏が中国企業への売却を決定、しかし米当局の承認を得られず売却を断念した赤字のイタリアの建材子会社の扱いだ。また、内需の構造的な縮小を鑑みると、収益性の高い事業の海外シフトを早急に進める必要もあるだろう。経営の正常化と成長軌道を確かなものにするための瀬戸氏の責任は重い。

さて、今回の1件はそのドタバタぶりに注目すると創業家の威光を勘違いした二代目経営者の「お家騒動」と映る。しかし、米国の資産運用会社の日本株担当者は今回の事案を「日本の企業統治改革の分岐点」と受け止めた。確かに総会では海外勢のみならず日本の機関投資家の一部も株主提案の指示に回った。また、14人で構成される取締役会はプロ経営者5人に元最高裁判事や元アメリカ国務次官補を加えた社外取締役9人が占める。この布陣において社外取締役は単なるお飾りでは済むまい。もはや会社側、株主側などと争っていては経営が立ち行かなくなるということだ。

日本版スチュワードシップ・コードが導入されて5年、議決権行使の個別開示等を通じて運用会社、アセットオーナー、そして、投資先である企業との関係は日本においても緊張感が増しつつある。利益相反、情報開示制度、運用会社の負担増等の問題はある。しかし、市場の健全かつ持続的な成長を促すためにも3者間における「目的をもった対話」(エンゲージメント)の更なる拡充を望む。


今週の“ひらめき”視点 6.23 – 6.27
代表取締役社長 水越 孝