今週の"ひらめき"視点

熊本県産アサリの偽装問題、消費者は正当な対価を受け入れられるか

熊本県産アサリの産地偽装の波紋が広がる。既にアサリ以外の水産物への影響も出ているという。偽装や不正表示は過去にもあった。とは言え、今回の “業界ぐるみ” と言わざるを得ない偽装の根の深さにはあらためて驚かされた。
農林水産省は2021年10-12月に独自に調査を実施、国産アサリの実に8割、2485トンが熊本県産と表示されて販売されており、その97%に外国産が混入している可能性があると発表した。推計値とは言え、この3カ月間の熊本県産アサリの販売量はおととし1年間の県産漁獲量の118倍という非現実的な数字である。つまり、どこかで熊本県産が大量生産されているということだ。漁業者、漁業協同組合、卸、小売りのプロが気付かないはずがない。

食品表示法は原産国表示を原則とする。しかし、2か所以上で生育した場合は期間が長い方を原産地として表示できるという。アサリの生育期間は1年半、とすれば中国からの輸入アサリであっても、その半分を国内の漁場で畜養すれば国産だ。しかし、それでは利益が小さい。結果、期間を短縮する、あるいは畜養をスルーする業者が現れる。偽装の内訳は前者が2割、後者が8割との指摘もある。

問題の背景には国産アサリの絶対的な減少がある。1970年代、国産の4割、6万トンを越える水揚げを誇った熊本であるが2020年は21トンに止まった。国産全体でもピークの3%にも満たない。乱獲、汚染、埋め立て、気候変動など要因は複合的だ。ここが偽装の原点である。少しでも高く売りたいアサリ業者、安く仕入れてたくさん売りたい小売業者、安さに国産という安心を求める消費者、言わば全員が偽装の当事者であり、パートナーである。結果、本物の国産が偽装の中に埋もれる。つまり、まっとうな業者が正当な対価を受けられない、ということだ。

2021年、農産品の輸出がはじめて1兆円を越えた。“おいしくて安心安全” がジャパン・ブランドの訴求力である。内需の成長に限界がある中、輸出の振興は農林水産業の経営基盤強化に不可欠だ。国は2025年に2兆円、2030年に5兆円の目標を掲げる。そうした中で発覚した偽装問題だ。ジャパン・ブランドへの影響を最小化するためにも偽装の常態化を容認してきた業界体質の早急な改善が求められる。そして、そのためには消費者自身もまた「国産ゆえの値上げ」と「安いゆえの品質」を当たり前のこととして受け入れる必要がある。日本人自身が価値を認めないジャパン・ブランドに高い値はつかないのだから。


今週の“ひらめき”視点 2.6 – 2.9
代表取締役社長 水越 孝