今週の"ひらめき"視点

国連ビジネスと人権作業部会、会見。内向きの論理を排し、ガバナンスの強化を

8月4日、国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会は約2週間かけて行った訪日調査について日本記者クラブで会見した。一行は東京、愛知、大阪に加え北海道、福島を訪問、企業、官庁、自治体関係者等と面談、人権に関する国家の義務、企業の責任、救済へのアクセスという3つの視点から日本の人権状況について調査した。作業部会は今後更に情報を収集し、2024年6月に国連人権理事会に最終報告を提出するとのこと、会見は言わば中間報告という位置づけである。

内容は極めて具体的、かつ、広範におよんだ。男女間の賃金格差をはじめとする女性の社会進出の遅れ、障害者雇用率の低さ、被差別部落や先住民族に対する差別問題、過労死に象徴される過重労働、不正な就業実態を助長した外国人技能実習制度、LGBTQの権利保護の不十分さ、内部通報に対する報復、有名芸能事務所の性的搾取とそれを不問としてきたメディアの責任、そして、福島第一原発廃炉作業における健康被害や多層的な下請構造の問題など、日本社会そして産業界における人権の現状について多面的な指摘がなされた。

日本は2020年10月、「ビジネスと人権に関する行動計画」を策定、2022年9月には「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を決定している。しかし、現時点ではあくまでも “ガイドライン” に止まっており、義務化の必要性があらためて指摘された。また、大企業と中小企業、都市部と地方におけるギャップや裁判官や弁護士など “救済する側” の人権意識の低さへの懸念も示された。人権に関する独立専門機関の設置、人権デューデリジェンスの義務化、各層への啓蒙など、国としての更なる取り組みが求められる。

短い調査期間、限られた調査範囲とは言え、会見は “差別や不平等” の背後にある日本社会の負の体質を見事に活写したと言える。旧態依然とした組織の論理、不合理な慣習への無批判な同調、不都合な事実の隠蔽、異論や少数者の排除、責任主体の不在、、、そう、直近ではビッグモーターや日本大学の問題で露呈したガバナンス不全にも通じる構造問題の一側面が浮き彫りになったということだ。今やESGへの取り組みが企業評価の重要要件であることは言うまでもない。
E(Environment)に対する意識は高まりつつあるし、取り組みもカタチにし易い。問題はS(Social)とG(Governance)だ。国、企業、そして、何よりも個人としての私たち一人一人の意識と行動が問われている。


今週の“ひらめき”視点 8.6 – 8.24
代表取締役社長 水越 孝