今週の"ひらめき"視点
地方の公共交通の再興に向けて。部分最適から全体最適への発想転換が不可欠
8月26日、次世代型路面電車(LRT)“宇都宮芳賀ライトレール線” が開業した。1993年、宇都宮市内の渋滞解消を目的に当時の渡辺栃木県知事が「新交通システム構想」を発表、以来、紆余曲折を経て、宇都宮駅東口から芳賀・高根沢工業団地を結ぶ14.6㎞の全線を新設、宇都宮市、芳賀町がそれぞれ40.8%、10.2%を出資する第3セクター方式で営業運転を開始した。構想当時の目的である交通渋滞の緩和はもちろん、脱炭素、コンパクトシティ化といった新たな役割も担いつつ、市民生活を支える公共交通として、また、持続可能なまちづくりモデルとしての成果が期待される。
LRTは地方の公共交通にとって久しぶりの明るい話題であった。しかしながら、地方公共交通の危機は深刻だ。災害からの復旧見通しが立たないローカル線も少なくない。JR日田彦山線もその1つ、2017年の九州北部豪雨で被災、不通区間は約40㎞におよんだ。沿線自治体は鉄道での復旧をJR九州に要請するが、結局、費用負担の問題もあり線路跡の一部を専用道化し、一般道と組み合わせて走行するBus Rapid Transit(BRT)への転換を受け入れた。BRTは8月28日に運行をスタート、鉄道駅より停留所を増やすなど利便性を高め需要の維持をはかる。
とは言え、バスへの転換が最終解ではないし、公共交通の経営難は地方だけの問題ではない。9月11日、大阪の南河内エリアで15路線を運航するバス会社が業績低迷と運転手不足を理由に12月20日をもって事業を廃止すると発表した。公共交通政策の歪みは早くから両備グループ(岡山)が問題提起してきたが、この夏、同社の小嶋光信氏が議長を務める全国有力事業者8社から成る「公共交通経営者円卓会議2023」が地域公共交通再興に向けての共同提言をとりまとめた。まず、前提として「コロナ禍によって事業者は経営の体をなさない状況に追い込まれた」としたうえで、運賃制度、交付税、補助金、人員不足、環境対策等の在り方について提言、「競争から協調へ」の制度改革が必要であると結論づけた。
公共交通を巡っては国も動く。この4月にはローカル鉄道の存廃や代替交通の在り方について事業者と沿線自治体との合意形成を国が調整できるよう地域公共交通活性化再生法を改正した。また、国土交通省は現在12分野で外国人の在留を認めている「特定技能」にバス、タクシー、トラックの運転手職を加える方向で調整に入った。利害調整の迅速化や「2024年問題」対策としては有効だ。しかし、問題の根本は内需そのものの縮小であり、したがって、単一線区、特定地域、個別事業者を越えたレベルで公共交通の未来を構想する必要がある。問題の本質は、国土全体をどう維持してゆくか、ということにある。
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代表取締役社長 水越 孝