今週の"ひらめき"視点

国立科学博物館、クラファンで9億円を調達。文化行政見直しの契機に

11月6日、独立行政法人国立科学博物館、通称 “かはく” は、8月7日から11月5日にかけて実施したクラウドファンディングの結果を発表した。“地球の宝を守れ、かはく500万点のコレクションを次世代へ” との趣旨でスタートしたプロジェクトは目標1億円を開始後9時間でクリア、最終日までに支援者56,562人を集め、支援総額は国内クラウドファンディング史上最高額915,560千円に達した(最終集計額は11月13日に確定予定)。

資金使途は返礼品を含む間接経費に3.2億円、コレクションの充実、標本や資料の維持管理に4.4億円、他館とも連携した収蔵標本のレプリカ作成や災害リスクへの準備、巡回展の実施などに1.6億円を予定しているとのこと。政府も博物館の自主的な予算獲得の取り組みを支持するとともに「安定的な博物館運営に取り組む」と表明した。

学術・芸術・文化活動に対する支援形態は国によって異なるため一概に比較は出来ない。とは言え、文化予算における日本の低さはやや突出している。各国の国家予算に対する文化予算比率と国民一人あたり文化支出額は以下のとおり。韓国1.24%、6705円、フランス0.92%、7079円、ドイツ0.36%、2744円、イギリス0.15%、2810円、日本、0.11%、922円である。因みに所管官庁を持たず民間による自主運営をベースとする米国は同0.04%、545円、それでも絶対額では1803億円、日本の1166億円を上回る※1

コロナ禍の初期、政府は「不要不急の外出自粛」の徹底を国民に求めた。結果、芸術、文化、娯楽産業は社会からはじき出された。状況は世界も同様だ。そうした中、ドイツの文化支援策が注目された。施策の規模、質、スピード感の見事さに異論はないだろう。しかし、最大の支援は「連邦政府は芸術支援を優先順位の一番上に置く」「文化は良き時代においてのみ享受される贅沢品ではない」「文化は民主主義の根幹である」といったメルケル首相やグリュッタース文化行政担当相からの、すなわち国家からのメッセージである。“かはく” のクラファンは大きな成果である。しかし、それは国の取り組みの物足りさも意味する。人類共通の資産をいかに未来へつなぐか、文化支援の在り方を見直す契機としたい。

※1)出典:令和2年度文化庁委託事業「諸外国の政策等に関する比較調査研究」報告書(一般社団法人芸術と創造)


今週の“ひらめき”視点 11.05 – 11.09
代表取締役社長 水越 孝