今週の"ひらめき"視点
パレスチナを巡り国際情勢、緊迫。まずはガザ市民に安全と食料を!
5月24日、国際司法裁判所はイスラエルに対してラファにおける軍事作戦の即時停止の暫定措置命令を発出した。イスラエルと米英はこれに猛反発するが中東諸国はもちろん、グローバルサウス、欧州でも対イスラエル非難と早期停戦への声が高まる。そうした中、再び悲劇が起こった。26日、イスラエル軍はラファの難民キャンプを空爆、45人の民間人を殺害、負傷者は数百人にのぼった。飢餓と攻撃に晒され続けるガザの人道上の危機はもはや看過できない状況にあり、一刻も早い停戦と食料、医薬品の搬入が望まれる。
この問題における「そもそも論」は20世紀初頭の英国による委任統治に遡るが、対ハマスという意味では2006年に行われたパレスチナ自治評議会の総選挙が起点となる。1947年の国連パレスチナ分割決議に端を発した一連の対立と和平プロセスの中にあって、結果的に占領と入植の拡大を止められず、かつ、腐敗が蔓延していたアッバス議長率いるファタハ政権に対する民衆の不満がハマスを選挙で勝利に導いた。以後、イスラエルの生存権を認めないハマスに対して、イスラエルは軍事力を背景に隔離と分断を徹底、ガザを政治的、経済的、社会的、精神的に孤立させてゆく。
ナチスによるホロコーストの生存者を両親に持つ米国の政治学者サラ・ロイ氏の著書「ホロコーストからガザへ」(青土社、2009年初版)に印象深い一節がある。2009年1月28日、トレブリンカ絶滅収容所の犠牲者の孫がエルサレムの国立ホロコースト博物館の記念碑に刻まれた祖父の名前を削除して欲しいと『ル・モンド』紙上でイスラエル国家元首に訴えた。「ユダヤ人の被った恐怖の証言者である祖父の名前が、いまパレスチナ人に降りかかっている恐怖を正当化するために利用されないようにしたい」と。
28日、アイルランド、スペイン、ノルウェーがパレスチナ国家を承認すると発表、仏マクロン氏も “承認” に言及した。一方、トルコのエルドアン氏は「国連精神はガザで死んだ」と語り、イスラム世界に行動を呼びかける。小規模であるがエジプトとイスラエルの交戦も伝えられた。その1週間前、日本政府はハマスによるイスラエルへの攻撃に職員が関与したとして中断していた国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)を介した物資の供与を再開した。カイロで行われた式典では在エジプト日本大使が「多くの国が支援を再開していると認識している」と語ったというが、いや、他国がどうこうではないだろう。誰の顔を伺うのではなく、法の支配を掲げ力による現状変更を否定する日本国の意思としての外交を願う。
今週の“ひらめき”視点 5.26 – 5.30
代表取締役社長 水越 孝