2019年版 製薬市場の10年展望
1989年当時、わが国の製薬業界は右肩上がりの成長を持続し、景気変動に左右されない有望業界として、その存在感を高めておりました。そのため当時、将来、わが国の製薬市場が低迷することになるということを予測する人の方が、圧倒的に少数派であったといえます。
しかし、それから30年という月日が過ぎ、わが国の製薬市場は21世紀という新たな時代に入り、市場の低迷状態が鮮明になってきました。
この背景には世界の先進諸国と同様、わが国の政府も社会保障制度を持続するには医療費の伸びを大幅に抑制する必要に迫られ、さまざまな抑制策が打ち出されたからです。政府としては、国民に直接負担を強いることになれば厳しい批判にさらされ、政権を維持することが危うくなりかねません。そのため国民の批判が少ない製薬業界を狙い撃ちにし、医療費の抑制を行いました。政府は『国民皆保険制度の持続』と『イノベーションの推進』を掲げておりましたが、結果的に前者の方が優先される結果となりました。
具体的には2017年12月に中医協において『薬価制度の抜本改革』の全容が決まりました。そこでは製薬企業や医薬品卸にとって利益確保の大きな存在となってきた長期収載品の薬価を段階的に後発医薬品まで引き下げる新たなルールが導入され、新薬創出等加算も革新性の高い新薬に絞り込むことになりました。さらには効能追加に伴う市場拡大に対応するため年4回の収載機会に350億円超の品目を再算定するほか、毎年薬価改定を全ての医薬品卸から調査対象を抽出し、全品目の薬価調査を実施するなど、さまざまな改革内容が決定しました。
このような厚労省案が示された当初、国内外の製薬団体は新薬創出等加算の縮小に猛反発しました。この動きに対して厚労省は当初案を修正し、企業指標の範囲に上限を決め、類似薬効比較方式について2020年度改定までの暫定措置として改めて検討する対応案が示され、1年間に渡って議論してきた『薬価制度の抜本改革』が決着しました。製薬業界としては不本意でしたが、政府に押し切られました。
この結果、製薬企業は先行き不透明感が強まり、経営戦略や経営計画の見直しを迫られることになりました。新薬開発の難易度が急上昇し、競争が激化している製薬企業にとっては、死活問題といっても過言ではありません。
このような状況下で武田薬品はシャイアーを約6兆2,000億円で買収し、事実上、米国市場に経営の中心軸を移すことになりました。このような動きは、これまでわが国においてはみられないことでした。このことが特定の企業だけの現象なのかどうかは、今後のわが国の製薬市場の動向がどのようになるのかで変化するものと予想されます。
一方、医薬品卸も『薬価制度の抜本改革』によって製薬企業同様、多大な影響を受けることとなりました。加えて2018年1月に厚労省医政局長と保険局長の連名通知『医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン(流通改善GL)』が発出されました。このことも医薬品卸各社にとって経営を持続するために乗り越えなければならない課題となりました。
今後、医薬品卸の成長エンジンであった医療用医薬品事業は市場が低迷することが予想されております。そのため医薬品卸各社としては、将来に渡り自社の成長を持続させるために、コア事業の発展形、あるいはこれまでの事業の枠を大きく超えた新たな企業体へと変化する必要があります。例え今後も医療機関や薬局が主な顧客だとしても、その関係から新たな収益源を見出さなければなりません。
このように未来に対する不透明感が高まる製薬市場において、関連する企業としては独自に未来の変化を予測し、対応策を講ずることなどが必要になっております。本書では、ご利用される皆様が厚労省の新たに定めた将来目標である2040年に向かって製薬市場が今後どのように変化し、そのポイントはどのようなことなのかを見出す一助になるような内容で構成されております。
※紙媒体で資料をご利用される場合は、書籍版とのセット購入をご検討ください。書籍版が無い【PDF商品のみ】取り扱いの調査資料もございますので、何卒ご了承ください。
調査資料詳細データ
調査目的:本書では、現在、製薬市場において生じている動きを川上から川下まで通して調査を実施し、分析を行った。さらに製薬市場で今後10 年間に起こりうる動きを予想し、そのことを文章化・数値化した。
本書は、4つの項目で構成した。
(1)医療提供体制の変化(2)医薬品流通の変化(3) 製薬企業の変化(4) 製薬市場の変化
調査対象:行政当局、製薬企業、医薬品卸、医療機関、薬局、学識経験者、業界紙関係者
調査方法:当研究所研究員による面接調査を基本として実施
調査期間:2018年4月~2019年3月
- 低迷する製薬市場において生じるさまざまな変化を予測
- 2040年へ向けて変革を強いられる医療提供体制をさまざまな視点から分析
- 薬効別医薬品の今後10年を予測
- 製薬企業と医薬品卸の経営戦略はどのように変化するのかを分析
第1章 2040年を政策目標に定めた社会保障制度改革
第2章 今こそ必要な医薬品流通のイノベーション
第3章 低成長時代の製薬企業の経営
第4章 低迷する製薬市場
Executive Summary
第1章 2040年を政策目標に定めた社会保障制度改革
2040年を見据えた社会保障制度改革
増加を続ける社会保障費
概算医療費は前年度比2.3%増の42.2兆円
2025年から2040年へ
消費税は10%に増税へ
8%増税の際の教訓
急性期病院は正念場
10%増税は通過点なのだが
新たな目標に向かって動き始めた診療報酬・介護報酬
2018年度診療・介護報酬本体プラス改定
アウトカム評価の拡大‐成果評価と費用の効率化
超高齢社会に対応したかかりつけ医機能の強化
オンライン診療の新設と今後の医療への影響
診療報酬・介護報酬の同時改定で強化される連携
介護医療院の今後の可能性
未来の在宅医療の姿
地域医療構想下で病院の見据えるべき方向性
地域医療構想下での医療圏のあり方
増収減益傾向が続く病院
当事者側からの改革
フォーミュラリーの普及は後発医薬品市場拡大の切り札となるのか
未来のシナリオを正しく描けているのか
国民共通の財産である皆保険制度を維持するために医療機関がなすべきこと
転換期に差し掛かった薬局経営
誰のための医薬分業なのか
近い将来、減少に転ずる薬局数
高齢者に対する減薬の強化
ICTを活用し医療費抑制に貢献
第2章 今こそ必要な医薬品流通のイノベーション
プラス改定の財源を生み出した平均乖離率
2000年以降で最大平均乖離率
現行の納入価交渉は進化しているといえるのか
消費税増税に伴う薬価引き下げ
医薬品流通のイノベーションにより市場の景色を大きく変化させる
薬価制度の抜本改革への対応
流通改善ガイドラインへの対応で課題解決の糸口を見出せるのか
気になる物流企業の動き
サブスクリプション事業を拡大する
ICTを活用した事業開発ができるのか
さらに踏み込んだ営業のあり方を示すことができるのか
拡大を続ける1社流通
配送形態見直しの可能性
新たな業界再編の動き
それぞれの経営持続の形が見え始めた医薬品卸各社
物流イノベーションと顧客支援システム強化で体質強化を図る東邦ホールディングス
積極的に協業を行うことで営業力強化を推進するスズケン
成長を持続できる収益構造への転換を推し進めるメディパルホールディングス
付加価値提案の実践強化を推進するアルフレッサホールディングス
第3章 低成長時代の製薬企業の経営
新たな局面に突入した製薬市場
取り残されるのか日本市場
過大な期待が望めない製薬業界
製薬企業の大きな収入源が消える
後発医薬品企業も独自の成長エンジンが必要な時代に
研究開発のあり方が大きく変化する状況下で変更を求められる製薬企業
武田薬品がついにシャイアーを買収し、世界トップ10入り
スペシャリティ医薬品が増加する中で、低分子医薬品はどうなるのか
進化するがん治療と治療薬分野
これまで以上に積極化する製薬企業によるベンチャー企業の買収・提携
低成長時代の製薬企業の姿
武田薬品によるシャイアー買収は業界再編の口火となるのか
したたかな製薬企業が強みを発揮する時代に
製薬企業各社の人員削減は加速する
医薬営業のあり方は大きく変化する
プラットフォームビジネスの台頭
製薬企業の今後の流通政策
ついに始まった卸選別の動き
第4章 低迷する製薬市場
『薬価制度の抜本改革』によって市場をコントロール
医薬品費の伸びを政府がコントロール
イノベーションの評価は限定的
中期経営計画は目標値のズレが拡大
難易度が上がり続ける医薬品開発
プレシジョン・メディシンの進展などにより活況を呈する抗がん剤開発
苦難の認知症治療薬開発
どこまで進展するのか創薬にIoTの活用
動き出したAI創薬
競争ではなく共創ができるのか
IoTの活用で医薬品開発は進化するのか
わが国の医療用医薬品生産高予測(2018年~2026年)
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