今週の"ひらめき"視点
ICTCO解散、スタートアップの創出、育成には政策の継続性が不可欠である
2013年7月、中野区は産官学連携による新産業創出を目的に産業振興拠点の運営を担う事業者を公募、選定された中野区に本社を置く事業者によって一般社団法人中野区産業振興推進機構(ICTCO)が設立された。そのICTCOが、この8月、中野区との協定期間満了をもって9年間におよぶ活動に幕を降ろす。微力ながら当社も設立時から参画、西武信用金庫、構造計画研究所、中野コンテンツネットワーク協会殿とともに全期間においてICTCOの活動に関与させていただいた。残念ながら道半ばでの終了となったが、区の産業振興に一定の役割を果たせたものと自負する。
ICTCOは会員制コワーキングスペースの運営をベースにICT、コンテンツ、ライフサポート、アート分野における新規事業の立ち上げ、スタートアップの成長支援に実績を残した。また、区民向けのサイエンスカフェの開催や区政課題の解決に向けたICTの活用提案など、ビジネス領域を越えた活動にも取り組んできた。これらは9年間、最前線で奮闘した板生清理事長(東京大学名誉教授、工学博士)の功績である。とりわけ、区内外の研究開発型企業や教育機関等とのハイレベルな連携プロジェクトは「NPO法人ウェアラブル環境情報ネット推進機構(WIN)」の理事長でもある板生氏の人脈、行動力、知見によるところが大きい。
「日本のベンチャー投資額は米国の1%、中国の17%に過ぎない。ユニコーン数※は米国が488社、中国が170社、人口500万人のシンガポールが16社、これに対して日本はわずか11社、起業率も欧米の半分の水準に止まる」、これは日本経済の成長力の鈍化、構造変革の遅れを指摘する際に引用される象徴的な数字である。事実である。しかし、だからといって「日本人は起業マインドが足りない」とはならない。昨年、政府の成長戦略有識者会議は生産性向上をテーマに「中小企業の再編・統合」について議論した。つまり、中小企業が多過ぎることが問題として提起されたということであり、言い換えれば、かつて日本は起業家に溢れていた、ということだ。
※ユニコーン:評価額が10億ドル以上の創業10年以内の未上場企業
実際、9年間のICTCOの活動を通して、「学生からシニアまで、日本人の起業マインドは決して衰えていない」ことを実感した。では、なぜ、新産業創出に遅れをとるのか。
大企業の下請構造を前提とした中小企業政策から革新的なユニコーンが生まれることはないだろう。また、リスクや異端を許容、共有しない社会システムは新たな挑戦を委縮させるに十分だ。今年、政府の「骨太方針」はスタートアップを “成長の原動力” と明記、その創出と育成に取り組むことを表明した。既得権と既存の価値観からの制約や圧力にたじろぐことなく、総合的、持続的な事業創出環境づくりを期待したい。
今週の“ひらめき”視点 7.17 – 7.28
代表取締役社長 水越 孝