今週の"ひらめき"視点

コメ、店頭価格2倍に。減反思想の呪縛を解け

コメの小売価格の高止まりが続く。3月10日から16日までのスーパーにおける平均価格は5㎏あたり4,172円、1年前の2倍だ(農林水産省)。コメが店頭から消えたのは昨年の夏、当初、政府は「南海トラフ巨大地震注意の発出に伴う買いだめ、インバウンド、おにぎりブームによる需要増が要因であり、新米が店頭に並び始める秋口には落ち着く」と説明した。2024年の収穫量は2023年を22万トン上回った。しかし、価格は戻らない。この状況について「JA全農など大手の集荷量が21万トン減った(2024年末時点)。一部の卸業者による在庫調整の可能性もある」などとし、コメの需給バランスは全体として均衡しているとの立場を崩さなかった。

ただ、年明け後も状況は改善されず、2月に入ってようやく政府備蓄米21万トンの放出を決定、3月10日に第1回入札を行った。はたして「消えた21万トン」の原因が非農協系事業者による“売り渋り”であったとすれば、備蓄米の放出前に売り抜くのが自然だ。現時点でその兆候が見えないのは“更なる値上げ期待”があるのか、従来の政府説明に齟齬があるのか、そのいずれかということだ。

そもそも猛暑による高温障害のため2023年米は不足していた。需給は2024年上半期から既にタイトな状況にあった。そこに夏場の“想定外”の需要が重なったわけであるが、想定外とされた規模は収穫量比でせいぜい3%程度に過ぎない。この3%が“小売価格が倍になる”ほどの供給不足を招いた主因だとすれば、いかにぎりぎりの需給見通しの中で生産計画が立てられているかということだ。言い換えれば、コメ余りによる価格下落に対する過剰なまでの忌避がコメ行政の根底にあるということだ。

「減反」政策は2018年に廃止された。とは言え、主食用米から飼料用米に転作すれば転作奨励金がつくし、生産目標は政府の需給見通しをベースに都道府県単位で決定されている。需要の右肩下がりを所与の条件とし、補助金の効率を高めることを目指した減反思想が今も根付く。昨年改正された「食料・農業・農村基本法」は食料供給困難事態に対する施策として「輸入促進」を明記したが、平時の縮小均衡思想に縛られたまま主食であるコメの供給が困難となる事態を回避できるのか。食料安全保障は国が果たすべき責任の一丁目一番地だ。JAの在り方も含め、コメ行政の根本を今一度問い直す必要があろう。


今週の“ひらめき”視点 3.16 – 3.27
代表取締役社長 水越 孝

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