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今週の"ひらめき"視点

南海トラフ地震、想定被害拡大。一元的な司令塔のもとで広域防災対策を

3月31日、政府の中央防災会議は南海トラフ巨大地震の被害想定を公表した。東日本大震災の6倍、292兆円と試算された被害規模の大きさはもちろん、被災の様相を刻々と記述した内容にあらためて慄然とさせられる。発災と同時に61万棟から128万棟が揺れのため全壊、最大7.3万人が命を失う。直後の津波で最大20.8万棟が全壊、9.7万人から21.5万人が死亡、加えて火災により最大76.8万棟が焼失、最大2.1万人が犠牲となる。発災翌日の避難者は340-610万人、中京・京阪神都市圏の帰宅困難者は330-400万人に達するという。

報告書はライフライン、交通インフラ、災害関連死、孤立集落、文化財、エレベーター内の閉じ込め、ご遺体への対応に至るまで項目ごとに被災の影響をきめ細かく検討している。また、近畿阪神・中京圏という巨大都市と日本のサプライチェーンの要と言える太平洋ベルト地帯が被災することによる国内外の暮らしや経済への影響、生産活動・物流寸断の長期化に伴う産業構造の変化、国際競争力の低下リスクについても言及している。

一方、原子力災害に関する記述は物足りない。原発リスクはあくまでも“複合災害”の1つとしての扱いであり、「浜岡や伊方の原子力発電所の地震対策は原子力規制委員会の指導・監視のもと、事業者が確実に取り組むべき」との指摘にとどまる。静岡県が策定した浜岡地域の原子力災害避難計画では、全面緊急事態に際して例えば掛川市では富山市や黒部市、磐田市は金沢市や小松市が避難先として想定されている。避難経路は東名→名神→東海北陸道だ。はたして南海トラフ巨大地震発災に伴う複合災害発生時にこの計画は機能するのか。

政府は同様の試算を2013年に行っている。この時の想定被害額は220兆円、政府はこれを受けて防災対策基本計画をとりまとめた。しかし、12年を経て想定被害額は拡大した。背景には社会資本の老朽化問題がある。下水管腐食による八潮市の道路陥没、上越市の水力発電所の水圧管路の破断、笹子トンネル崩落事故も記憶に新しい。限られた予算、技術者不足、資材高騰といった自治体や事業者など管理者側の事情もあるだろう。しかし、被災エリアが広域におよぶ巨大地震対策では、縦割り行政を越えた司令塔と予算が必要だ。とりわけ、最悪の複合災害である原発リスクを最小化するためには従来の枠組みを越えた体制が必須である。学ぶべきことのすべては“フクシマ”にある。


今週の“ひらめき”視点 4.6 – 4.10
代表取締役社長 水越 孝

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