今週の"ひらめき"視点
自動運転の恩恵は地方に届くか。JR東日本、在来線で営業運転開始へ
3月8日、JR東日本は、常磐緩行線で自動列車運転装置(ATO)の公開試験走行を実施、13日から同線で営業運転を開始する。
自動列車運転は1981年、「ポートライナー」(神戸)が世界に先駆けた。以来、新交通システムや地下鉄で実用化されており、日本の技術は世界でもトップクラスである。
JR東日本については2018年に実施された山手線での実験が記憶に新しい。同社が目指すのは、その時々の運行条件変化に対応できる高度なシステムであり、緊急対応の添乗員のみが乗車する「ドライバレス運転」の実現が最終的なゴールである。
人口減少や社会のリモート化による人手不足、移動需要の縮小は避けられない。狙いはもちろん生産性の向上である。しかし、現行のシステムは自動列車制御装置(ATC)、踏切なし、ホームドアの設置が前提となっているため高架線や地下区間に限定される。つまり、地方の在来線は対象外ということだ。
都市の生産性は高まる。しかし、地方の疲弊は続く。ここに一石を投じたのが両備グループ(岡山)である。同社は県内全域で路線バスを運行するが、その多くは赤字であり、これを市内の黒字路線が支えることで事業を維持してきた。その黒字路線に新興の格安バス会社が参入した。同社はこれに対して「規制緩和による競争原理と公共交通に対する責任は両立しない」と訴えた(本稿2018年2月23日)。
同社の問題提起を受けて国会も動いた。新規参入に際しては地方公共団体を中心とした協議会を設置すること、運行ダイヤや運賃については独禁法のカルテル規制の適用を除外することを盛り込んだ「地域公共交通活性化および再生法の一部改正」に関する法案が昨秋、成立した。
法改正の基本理念は「地域の公共交通は地域自身がデザインする」ことにある。規制緩和の全国一律適用の見直しは前進だ。しかし、国土全体の公共交通網をどう維持するかについては未だ答えが出ていない。JR北海道、JR四国を筆頭に地方の公共交通事業者の多くが経営難に直面している。もはや個々の事業者の「自助」では解決できない。人がいて、生活があって、文化があってはじめて “地方” が成り立つ。それを支えるインフラは健全に機能しているか。地方の生活基盤の問題はまさに国土政策の問題であり、言い換えれば、安全保障の問題でもある。東日本大震災から10年、被災地の復興も地方の再生も未だ道半ばである。
今週の“ひらめき”視点 3.7 – 3.11
代表取締役社長 水越 孝