今週の"ひらめき"視点
“コロナ後の世界”への提案はあるか、今、企業の真価が問われている
26日、三陽商会の株主総会は、米RMBキャピタルが求めた取締役刷新議案を否決、中山雅之社長の取締役再任を含む会社提案を可決した。
4月14日、総会に先んじて発表された “再生プラン” は業績低迷の原因を「マーケティング改革の遅れ、裏付けのないストレッチプラン、構造改革の不徹底」と断じたうえで、ブランドバリューの向上と基礎収益力の回復をはかるとした。今後、副社長から社長に昇格した、三井物産出身でゴールドウィンの再生に尽力した大江伸治氏と社長から副社長に転じた中山氏をトップとする新体制で再建を進める。
新体制は、短期決戦型の組織、全ブランドの一元管理、仕入れの許可制、販路統制、ブランディング戦略、、、これらをそれぞれ「強化」、「徹底」、「断行」することで構造改革を推進すると表明した。
しかし、こうした強く、勇ましい文言にも関わらず成長戦略に手ごたえは感じられない。“再生プラン”にはこの先のトレンドや消費行動変化についての言及がまったくない。ゆえに顧客の顔もファッションへのビジョンも見えて来ない。投資家向け資料であることを差し引いても、三陽商会が企業として存在することの顧客や社会にとっての価値に対する提案が希薄であること、ここが物足りなさの所以だ。
そもそもの問題は15兆3千億円から9兆2千億円に縮小したアパレル市場、9兆7千億円から5兆7千億円へとピークから4兆円もの需要を失った百貨店市場の凋落、それらが同時に進行したこの30年間、消費構造変化と流通構造変化への先見性と対応力が欠落していたことにある。問題の本質は “バーバリー” ではないし、暖冬でも、消費増税でも、ましてやインバウンドでもない。つまり、これは三陽商会に固有の問題ではなく、オンワード、ワールド、そして、三越伊勢丹や高島屋にも共通する問題である。すなわち、失われた4兆円の残像の中に未来はない、ということだ。
15日、「レナウン」が民事再生手続きに入った。26日には「中合福島」が8月末をもって閉店すると発表した。同日、「青森国際ホテル」が自己破産を申請した。
アパレル、百貨店、地方、、、棚上げされてきた構造問題の猶予期間を新型コロナウイルスが一挙に奪い去った。
当面、私たちは新型コロナウイルスとともにある。であれば、この期間を未来に向けてのチャンスに置き換える責任がある。そうでなければ犠牲の大きさに報いることは出来ない。「すべてが終わった後、僕たちは以前とまったく同じ世界を再現したいのか」(「コロナの時代の僕ら」、パオロ・ジョルダーノ著、飯田亮介訳より)、つまり、そう言うことである。
今週の“ひらめき”視点 5.24 – 5.28
代表取締役社長 水越 孝