今週の"ひらめき"視点
ニデックvs牧野フライス、工作機械業界の未来を巡る攻防
1月28日、日本長期信用銀行を前身とするSBI新生銀行は、自己資本と親会社SBIホールディングスからの追加出資をもって公的資金1000億円を今年度内に返済、残る2300億円も早期に完済し、3度目の上場を目指すと発表した。2021年、SBIは新生銀行に対して”同意なきTOB“実施を発表する。新生銀行経営陣はこれに反発、買収防衛策の発動を探った。しかし、結局、ホワイトナイトは現れずSBI提案を受け入れることとなる。
今、牧野フライス製作所(以下、マキノ)がニデックによる”事前打診のないTOB提案“に揺れる。昨年12月27日、ニデックはマキノに対するTOBを表明、寝耳に水のマキノ側は社外取締役で構成される特別委員会を設置、TOB実施時期の先送りやTOB成立の下限を引き上げるよう要望する。しかし、ニデックは”方針どおり“を貫く構えだ。買収側と被買収側の交渉が公開で行われることは投資家にとってフェアであり、また、買い手にとってはスピード感も期待できる。一方、デューデリジェンスが甘くなる、つまり、買い意欲の高さゆえの”高値づかみ“や強引なプロセスが被買収側従業者の士気低下を招く懸念も残る。
今回の手法は”穏便な経営統合“を指向しがちな日本企業同士のM&Aにおいて異例の展開ではある。しかし、敵対的M&A自体は今や珍しくない。伊藤忠によるデサント、コロワイドによる大戸屋の買収、不成立となったが王子製紙による北越製紙、オーケーによる関西スーパーの事案も記憶に新しい。昨年暮れ、パチンコ機器メーカー”平和“がゴルフ場の最大手アコーディア・ゴルフを買収した。平和は2012年、既に傘下に収めていた業界2位のPGMを通じてアコーディアに敵対的TOBを仕掛けている。この時は、失敗に終わったが、その後、アコーディアはファンドからファンドへと譲渡され、最終的に平和は目的を達成する。
内需の成長力が低下する中、事業会社同士のM&Aも活発化するだろう。上場会社経営陣に求められるのは企業価値の向上であり、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードの実践はその前提である。問われているのは合理的で蓋然性の高い経営戦略とその実現力である。身内に閉じた論理はもはや通用しない。ニデックとマキノには堂々とそれぞれの事業戦略の優位性を資本市場にアピールしていただきたく思う。ただ、今更ではあるが、そして、もちろんこれも戦術の一環であろうが、何も年末年始”奇跡の9連休“の前日に敵対的TOBを公表せずともよかったのでは? ニデックさん。
今週の“ひらめき”視点 1.26 – 1.30
代表取締役社長 水越 孝