今週の"ひらめき"視点

南信州伊那谷にインバウンドを。成功条件は田舎の価値の最大化!

1月31日、飯田下伊那地域(長野県)の観光振興と地域経済の活性化を目的に「サザン長野田舎インバウンドコンソーシアム」が設立された。飯田市(結いターン移住定住推進課)は2020年度からNPO法人「えがおつなげて」の曽根原久司氏を代表講師に迎え、地元事業者やインバウンドに関心のある市民を対象に「田舎インバウンド講座」を主催してきた。コンソーシアムはこれを母体に欧州旅行業界に太いパイプを持つ旅行会社、ツアー・コーディネーター、メディアプロデューサーといった実務家を加えた陣容でスタート、微力ながら筆者も顧問として参画させていただいた。

4年間の「田舎インバウンド講座」で受講者は観光資源の掘り起こしやモニターツアーの開発に取り組んだ。コンソーシアムはこの成果を引き継ぐことで、欧米からの訪日リピート客を想定した9つのベーシック・プログラムを完成済みだ。天竜峡や下栗の里といった観光名所はもちろん、星空観察、五平餅づくり、茶摘み体験、秋葉街道(旧道)トレッキング、郷土芸能鑑賞など、”田舎“を五感で感じる体験型のツアー・プランが用意されている。

それにしても飯田は遠い。東京からは南アルプスを迂回し、諏訪経由でも、豊橋経由でも、高速バス、鉄道、いずれを利用しても4時間を要する。とは言え、これこそ”本物の田舎“に至る”儀式“でもある。初代コンソーシアム会長に就任した古民家旅館”燕と土と“のオーナー中島綾平氏は「下伊那地域までの行程そのものを味わって欲しい」と語るが、まさにこの4時間が豊かな自然と独自の文化がこの地域で育まれ、継承され続けてきた所以でもあろう。

コロナ禍を経てインバウンドは絶好調だ。長野県への訪問客も増えている。ただ、宿泊数ベースでは全体の1.1%(2023年、観光庁)、人気エリアは善光寺やスキー客で賑わう北信、軽井沢の東信、松本城、上高地、南木曽を擁する中信だ。このことは南信、すなわち、飯田下伊那エリアは大手資本にとって優先順位が低いことを意味する。言い換えれば、特色溢れる小規模事業者や意欲的なスタートアップにとって絶好のビジネス・フィールドであるということだ。飯田はリニア中央新幹線の途中駅が予定されている。しかしながら、規模化と効率性を戦略の軸に置いた時点で田舎の価値は減価する。田舎であること、そこでの営みに共感する需要層に絞り込んだマーケティングで、この地域ならではの持続可能な観光価値を創出していただきたい。

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今週の“ひらめき”視点 2.2 – 2.6
代表取締役社長 水越 孝