今週の"ひらめき"視点
「化石賞」はいらない。国は脱炭素に向けての覚悟を
政府は、低効率でCO2排出量が多い石炭火力発電を段階的に削減する方針を固めた。対象となる旧型の石炭火力は110基、うち9割を2030年までに段階的に廃止する。
日本の石炭火力のシェアは31%、石炭火力への依存度の高さは国際的にも批判の的となっており、11月にロンドンで開催される第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を前に国の電力政策を明確化しておく狙いもある。
地球温暖化防止に向けて世界の流れは一致している。資本の世界も同様であり、機関投資家の視線はこれまで以上に厳しい。今年の総会では、みずほフィナンシャルグループへの株主提案が注目された。
提案者は環境NGO “気候ネットワーク”、将来性のない化石燃料事業への投資はみずほグループにとってリスクであり、また、新興国の石炭火力事業への融資はパリ協定と整合しないとして、「パリ協定の目標に沿った経営計画の開示」を義務付けるよう定款の変更を求めた。会社側は「石炭火力発電への融資については与信残高削減目標を設定している」、「環境や社会に配慮した投資方針は従来から積極的に開示している」と反対を表明、一方、米の議決権助言会社は株主提案への賛成を推奨、ノルウェーやデンマークの年金基金はこれを支持した。結果、株主提案は否決された。ただ、1/3の賛成票を集めたことの意味は大きい。
30日、日本経済新聞はNTTが2030年度までに独自の発送電網を整備し、再生可能エネルギー事業に参入すると伝えた。投資額は1兆円、発電量は日本の再生可能エネルギーの12%、四国電力1社の発電力を上回る750万キロワットを確保するという。
既存電力会社の競争優位は発送電網の独占にあるが、NTTはこれに依存しない体制を構築する。全国7,300の電話局に蓄電池を配備、これをネットワークすることで顧客への直販を実現するという。NTTという大資本の参入は再生可能エネルギーへのシフトを一挙に加速させるインパクトがある。
世界のESG投資資金は2018年時点で30兆6,800ドル(3,400兆円)を越える。100年という超長期の視点で運用する年金基金や保険会社も出てきた。総資産2,200億ドルを有する世界最大の運用会社「ブラックロック」のローレンス・フィンク氏は気候変動問題が「世界の運用ルールを変えた」と語る。
政府は旧型石炭火力休廃止への道筋を提示した。前進ではある。とは言え、発電効率の高い新型石炭火力30基は維持し、かつ “新設” も認めると言う。また、新興国への輸出も継続することを表明している。
パンデミックによるエネルギー需要の縮小は石炭火力のコスト優位を一時的に更に高めるだろう。ただ、目先の利益と既得権に安住し続ける限り、未来は遠のく。世界のESGマネーを引き寄せ、次世代エネルギー産業でイニシアティブをとるためにも中途半端なご都合主義は捨てるべきである。新型コロナウイルスはあらゆる業界のイノベーションを加速する。もはやコロナ以前への後戻りはない。今こそエネルギー政策を根本から見直す最大のチャンスであり、この機を逃すべきではない。
今週の“ひらめき”視点 6.28 – 7.2
代表取締役社長 水越 孝